【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
「小学生の描いた絵のNFTが数千万円で売れた」「世界最初のショートメッセージ(SMS)のNFTがオークションで、1000万円超えで落札された」
最近、NFT(非代替性トークン)を巡る景気のいい話が世間をにぎわせている。NFTは「鑑定書がついたデータ」のようなイメージで、仮想空間「メタバース」を構成する重要な要素でもある。デジタル資産として高値で取引される現状はバブルとの指摘もあるが、中国ではNFTで一攫千金を狙う雰囲気が高まっている。
わずか40分で売り切れ
中華圏で絶大な人気を誇る台湾の歌手ジェイ・チョウ(周傑倫)とエンタメ系NFTプラットフォームのEzekが2022年1月1日、ジェイ・チョウのアパレルブランド「PHANTACi」のキャラクター「Phanta Bear」(ファンタベア)のNFTを1万枚売り出した。1枚の価格は0.26イーサリアム(約9万3000円、イーサリアムは仮想通貨)で、1万枚の合計価格は9億3000万円だが、わずか40分で売り切れ。ファンからは「ジェイ・チョウのコンサートチケットを手に入れるより難しい」との声も上がった。
Ezekによると、ファンタベアNFTはEzek Clubの会員証の役割を果たし、今後開催予定のVR / XR仮想コンサートにアクセスできるようになるという。
流行語「NFT」、大物歌手、そして「お金のにおい」が組み合わさった同ニュースは、元日から中国のSNSやニュースプラットフォームを埋め尽くした。
国営通信社もニュースをNFT化
最初に断っておくが、中国では暗号資産の取引が全面禁止されている。NFTに関する当局のルールは現時点で存在しないものの、国内企業は自主規制してマーケットプレイスを開設していない。メタ社(Facebook)の社名変更でメタバースやNFTへの注目が急上昇した昨年秋以降はNFTという言葉も消え、「デジタル・コレクション(数字蔵品)」と言い換えられている。
それでも、海外のマーケットプレイスでNFTが高値で取引されるニュースが飛び交う状況を、投資好きの中国人は指をくわえて見ていることはできないようだ。NFTが発行されるたびに入手を試みる人が殺到している。
アリババグループの金融子会社「アント・グループ」が2021年6月、敦煌研究院と共同で世界遺産・莫高窟(ばっこうくつ)の壁画を元にしたNFTを10元(約180円)で8000枚発行した際には、数分で完売した。世界最大のゲーム会社テンセント(騰訊)、EC大手のJD.com(京東集団)がNFTを抽選方式などで無料配布したときも、奪い合いになった。
12月24日に国営通信新華社が運営するアプリが、2021年の注目ニュースをデジタルトークンにしたNFTを11万枚無料発行したときは、「国営通信社がNFTに参入するのだから、国として推進するのでは」との期待が高まった。
過去にもNFTに着想を得た大規模詐欺
NFTを発行する各社は、「NFTは暗号通貨ではない」「保管して楽しむデジタル資産」と位置づけ、投機的な動きをけん制している。
だが、これまでブロックチェーン、暗号通貨と新しい技術が話題になる度に、怪しいビジネスが横行してきた中国で、NFT詐欺が表ざたになるのは時間の問題だろう。
2020年8月には、中国人が大好きな「猫」と「投資」を組み合わせた大規模な「エア猫投資詐欺」が摘発された。アプリで仮想猫を購入し、有料の餌で一定期間育て、別のユーザーに転売するゲーム。その運営会社は、「転売の際には元本と最低10%の利息を受け取れる」とうたっていた。若者を中心に被害者が6000人を超えたこの詐欺は、NFTゲームの元祖的存在でもある猫交配ゲームの「CryptoKitties(クリプトキティ)」に着想したと見られている。
メタバース、NFTでも「新技術ブーム、投機過熱、不正行為に悪用、禁止」のループが再び繰り返されるのか、当局も警戒を強めている。
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