【J子が行く】J-CASTトレンド記者「J子」とその同僚たちが、体を張って「やってみた、食べてみた、行ってみた」をリポートします。
ゲームメーカーのプラチナゲームズ(大阪市)が展開する「ネオ-クラシック・アーケード」。昔懐かしい「クラシックゲーム」の魂を受け継ぎながら、ゲームの本質的な面白さを現代技術で追求するプロジェクトだ。第一弾として、自在合体シューティング「ソルクレスタ」を2022年2月22日に配信する。
同作の総監督を務めるのは、プラチナゲームズの副社長でチーフゲームデザイナーの神谷英樹さん。世界的ゲームデザイナーとして知られ、代表作には「バイオハザード2」や「ベヨネッタ」シリーズがある。なんとその神谷さんが、ソルクレスタの魅力や誕生秘話をJ子に明かしてくれた!
「古き良き」と「最新技術」が合体して生まれたゲーム
ソルクレスタのキーワードは「合体」、「分離」、そして複数種ある「フォーメーション」。自機となる3つの戦闘機「アマテラス」「ツクヨミ」「スサノオ」は、どの並び順で合体するかでショット性能が変化する。派手な演出と共に繰り出す強力なフォーメーション攻撃も、圧倒的な威力で敵を撃ち落とす爽快感や、「いつ、どんな種類を選んで出すか」判断する楽しみがある。
J子「シューティングがあまり得意ではない人にもできるでしょうか?」
神谷さん「難易度を幅広く用意して、気持ちよく遊んでもらえるよう調整しているので、クリア自体は難しくはないですよ。ただ『この敵にはこの攻撃が有効』というポイントがあるのは確かなので、ぜひ各所で最適解を突き詰めてほしいです。ハイスコアを狙って熱中できる遊び場を提供したいと思っています!
J子「良い意味で、従来のシューティングゲームよりも考えることが多そうです」
神谷さん「単に弾を避け、敵を撃つゲームにするのでは、言うなれば過去をなぞるだけになりますからね。『この時代に、我々が作る意味』を追求することで、過去にアイデアを競い合って、歴史に名を残してきた作品たちに続きたいです」
本作が掲げる「自在合体シューティング」はまさしく「ネオ」と「クラシック」の融合だ。
実は過去作にあたるシューティングゲーム「ムーンクレスタ」(日本物産/1980年)、「テラクレスタ」(同/1985年)に合体や分離、フォーメーションシステムが登場する。
しかし、一度合体すると任意のタイミングで分離できなかったり、何機合体している状況かによって出せるフォーメーションが決まっていたりと、条件があった。
ソルクレスタはこうした枠組みを踏襲しつつ、操作の自由度をより高める工夫を凝らしている。
J子「だから『自在合体』!奥深いです。神谷さんはもともと、これら『クレスタ』シリーズの続編を作ろうとしていたんですか」
神谷さん「いえ、そういうわけじゃないんです。シューティングを作りたい...もっと言えば、自分がかつて1人のユーザーとして遊び、ゲームデザイナーになりたいと憧れるきっかけになった、古きよき時代の2Dゲームを手掛けたかったんです」
抱き続けた夢を30年越しに叶えるために
クラシックゲーム大ファンの神谷さんが、熱く語り始める。
「1994年にカプコンに入社し、キャリアをスタートさせた頃は、まさに3Dゲームの波に飲み込まれていく転換期でした。時代が進み、2Dゲームは業界の主役ではなくなっていたわけです。以来27年間突っ走ってきて、これまでを思い返すと『結局、自分が憧れたゲーム作りを体験しないまま来てしまっているんだな』と寂しさを感じるときがありました」
ひるがえって昨今は、「インディーズゲーム」に注目が集まっている。インディペンデントゲームの略称で、少人数・低予算で開発された作品を指す。
神谷さん曰く「熱意のあるクリエイターに優しい時代になった」。小規模でも面白さの核をもったゲームが日々リリースされるのを見て、「プラチナゲームズはこれまでに大規模のゲームを作ってきている。自分も原点に立ち戻って、ゲームのコアだけで勝負できる作品を手掛けたいと思った」という。
「雑多に書きためているメモから、形にできそうなネタを企画書に起こそうとしていた日のことです。個人的に温めていたアイデアの一つに『合体シューティング』があり、さらに『合体』が遊びの軸になっているゲームには、ムーンクレスタとテラクレスタがあるじゃないかと思い立ちました」
そのとき、神谷さんの脳裏に疑問が浮かんだ。「どんなストーリーだったっけ?」、「ムーンクレスタやテラクレスタというタイトルは、作中の何を指している?」。かつて自分が遊んだはずなのに、不思議と気にしていなかったことだった。
神谷さん「テラクレスタは、海底基地から機体が発進するところからスタートします。調べると、『テラクレスタ』は地球奪回のために人類が結成した組織の名だとわかって、つまり地球を奪われた人類は海底基地に追いやられたんだなと考えました」
J子「とすると前作のムーンクレスタは...」
神谷さん「月を奪回せんとする組織の話なのか、と思いますよね。侵略軍と戦うも敗北し、月に続いて地球も奪われたのがテラクレスタだと。となると次に狙われるのは太陽系、もっと言えば太陽。そこで人類は太陽奪回組織・ソルクレスタを結成し、最後の戦いに挑むわけです」
このアイデアを捨て置くのはもったいないと、神谷さんは一気に企画書を書き上げた。ムーンクレスタ、テラクレスタ、その後に発売されたシューティング「テラクレスタII」(同/1992年)、「テラクレスタ3D」(同/1997年)も「正史」として包み込んだストーリーを書き、「クレスタ・サーガ」を完結させたい一心だったと言う。
J子、ここまで聞いて構想の深遠さに脱帽。ムーンクレスタとテラクレスタを予習しておいた方がよいということなのか。尋ねると神谷さんは、即座に「いえ」と首を横に振った。
「自分としてはソルクレスタの楽しみ方は二つあると思っています。往年のシューティングファンには、ムーンクレスタ、テラクレスタの思い出を振り返りながら遊んでほしいですし、逆にソルクレスタから入った人には過去作にも触れてもらい、『あ、これはソルクレスタに出てきたな』と感じてもらえたらうれしいです」
確かに「最新作から逆行する楽しさ」は、シリーズを初めてプレイする人だけが味わえる醍醐味だ。
構想から企画書の作成まで順調に進んでいる「ソルクレスタ」プロジェクト。しかしプラチナゲームズは、ムーンクレスタ、テラクレスタのメーカーである日本物産、そして現在その権利を持っているハムスター(東京都世田谷区)と関係はなく、続編を作る権限も持たない。
壁を乗り越え、制作決定にどうこぎ着けたのか。後編では、神谷さんが緊張のあまり「生きた心地がしなかった」と語る、ハムスターへの企画提案時のエピソードと、同社・濱田倫代表取締役社長のコメントを紹介する。