「おくりびと」再び 小山薫堂さんは中国での成功に苦労話を想う

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再生の物語

   DIMEは小学館が発行するビジネスパーソン向け生活トレンド誌。その巻頭を飾る小山さんのコラムは47回を数える。今回は自身の「成功体験」についての回想だ。

   ダイヤモンド・オンラインによると、中国での「おくりびと」は公開1カ月足らずで興行収入が11億円を超す人気を博した。葬儀に携わる人たちの間では以前から知られた作品だったが、大衆にも支持されたわけだ。

   SNSには〈死生観、家族愛、夫婦愛の映画でもある。3回鑑賞したが毎回泣くところが違う。そのつど新しい発見がある〉といった声が寄せられているそうだ。中国の娯楽市場も成熟し、アニメ以外の日本映画もいい作品は当然評価されるということか。

   大市場でのヒットに、滝田監督は「時や国を越えてこの作品が多くの方に受け入れて頂いたのであるならば、本当に映画冥利、監督冥利に尽きます」とコメントしている

   小山さんは「おくりびと」について、このエッセイのタイトルでもある「失敗と挫折のミルフィーユ」と顧みている。どんな失敗や挫折が、どのシーンや台詞に結び付いたのかは分からない。「どれかひとつでも成功していたなら、違う作品になっていたかもしれない」とまで記すのだから、失敗と挫折が書かせたシナリオなのだろう。

   末尾にある父親の言葉には、異論があるかもしれない。成功者が人生を振り返るときの結果論とも聞こえるからだ。ただ、小山さんが放送作家の道に進んだのは日大芸術学部の放送学科に入ったからで、それも「偶然に偶然が重なった結果」だったという。だから私は「人生は楽観的に行こう」というメッセージと受け止めた。

   個々の失敗や挫折が別の道を選ばせ、その先に思いもよらぬ幸せが待つ...そんなイメージだ。そういえば「おくりびと」の主人公も、楽団の解散で失職したチェロ奏者。ちょっとした勘違いから納棺師となり、ほかの仕事にはない充実感に浸る。

   映画は正面から死を扱いながら、ある意味、再生の物語でもあった。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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