コロナ禍の時代、映画業界にも多大な変化がもたらされた。多くの映画が公開スケジュールの変更を余儀なくされた。一方で、世界中で多様性の大切さが訴えられた時期とも重なる。映画では、黒人や女性を主役にした作品が続々と登場した。
2022年の映画トレンドはどうなるか。流行の最先端を走る米ハリウッド作品から、洋画を中心に見ている「映画宣伝ウォッチャー」のビニールタッキーさんに、予想してもらった。ブログ「第9惑星ビニル」などの運営のほか、映像配信サービス「Hulu」の公式noteで21年8月から連載を行っている人物だ。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・許田葉月)
「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」に期待
――コロナの影響は、映画業界にとっても大きかったように思います。
ビニールタッキー 振り返りますと2020年初頭には、コロナ禍での公開延期が相次ぎました。例えば、人気シリーズ最新作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」は、21年公開にずれ込みました。
当然ですが、公開する映画は製作費等の回収が必要です。しかしレイトショーがない、感染予防でコロナ流行以前よりも席がない、そもそも映画館が営業していないと回収が難しかったため、時期を遅らせるしかありませんでした。
劇場公開予定だった映画を「Disney+」や「HBO Max」といった自社プラットフォームでの配信限定に、または劇場との同時公開や1日ずらして先行公開することもありました。しかし、映画館業界からの評判は悪く、ワーナー・ブラザーズは22年公開映画の劇場・配信同時公開を取りやめると21年8月に発表。ウォルト・ディズニーも、21年9月に今度公開になる作品はハイブリッド公開を取りやめると発表しています(編注:後述の「私ときどきレッサーパンダ」は米国での劇場公開を見送り、ディズニープラスでの配信になる)。21年になると、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の公開が始まり、人気でお祭り状態になりました。
――MCUの人気は根強いですね。2022年話題になりそうな映画を教えてください。
ビニールタッキー 「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(日本公開1月7日)は話題になること間違いないでしょう。日本では、マーベルヒーローの中でも特にスパイダーマンが人気だと言われています。MCUの最新作ということで、見に行きたい人はたくさんいるでしょう。
「THE BATMAN ザ・バットマン」(3月11日)や「トップガン マーヴェリック」(5月27日)は、2020年のことも踏まえて少し不安です。米国の新型コロナ感染状況が芳しくなく、22年日本公開予定作も少し雲行きが怪しいです。本国で公開されないと、日本でも当然公開はないですから...。
今年の注目映画はコレだ
――近年のトレンドのようなものはどうでしょう。
ビニールタッキー 海外の映画を見ていて感じるトレンドは、3つです。1つ目にホラー・スリラーは大ヒットではないですが、社会派ホラーなどが好まれるようになりました。ストーリー性が重視され、身近に感じる恐怖や社会的な恐怖を描いた作品が増えました。傷ついてしまった人にフォーカスが当たった作品はマーケティング的に人気が出やすい傾向にあり、「ミッドサマー」(20年)がヒット。また1983年にオーストリアで製作された「アングスト/不安」(日本公開は2020年)も、公開館数以上の話題になりました。
――2つ目はいかがでしょうか。
ビニールタッキー 「多様性と包括性」。最新の作品では、ジェンダーや人種、身体障害の有無など、メインではないですが取り上げられるようになってきました。18年に公開された、黒人ヒーローが主人公の「ブラックパンサー」が転換点だったように感じます。
メイン級でいうと、MCUシリーズの作品が挙げられます。「ブラック・ウィドウ」(21年)は、男性から支配的に抑圧され、反抗する女性を描き、「シャン・チー/テン・リングスの伝説」(21年)は、アジア系かつ家父長制に抵抗するヒーローを描きました。「エターナルズ」(21年)では聴覚障害者の俳優が聴覚障害を持つヒーローとなり、手話もします。ゲイカップルのキスシーン、黒人やアジア人もヒーローとして出てきました。これらを大作でやることに意義があります。
――最後の3つ目は。
ビニールタッキー 今後どうなるかわかりませんが、「女性監督」が注目されてきています。日本でも若手で注目されている人がいますが、ハリウッドでも増えてきました。「エターナルズ」の監督の中国人のクロエ・ジャオ氏は「ノマドランド」(21年)でアカデミー賞やヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞。カンヌ国際映画祭でもジュリア・ディクルノー監督が、「チタン」(日本未公開)でパルムドールに輝いています。これは女性監督作としては2作目でした。
MCUも、性暴力やハラスメントの被害を告白する「#MeToo運動」以降に女性監督が増えてきました。製作側も女性を積極的に採用する取り組みを行なっています。
――最後にテーマごとに、2022年の注目映画を教えてください。
ビニールタッキー 「社会派ホラー」からは、「NOPE」(日本未定・全米7月22日)です。「ゲット・アウト」「アス」で社会派ホラー映画の新鋭となったジョーダン・ピール監督の最新作です。まだ全貌が明らかになっていないのですが、この監督ならまた間違いなく強烈な風刺のきいた社会派ホラーであると予想できます。(2022年1月18日追記:本文を一部訂正いたしました。)
余談ですが今後、コロナに関連してホラー・スリラー、SFで「終わらない不安」のようなものがテーマになりそうな予感があります。
「多様性と包括性」というテーマでは、「コーダ あいのうた」(1月21日)。サンダンス映画祭で4冠に輝いた注目作です。耳が聞こえない家族で一人だけ健聴者の娘が家族を支えることと自分の夢の間で葛藤する話です。家族を演じるのは実際に耳の聞こえない俳優たち。当事者に配役するという点で包括性を感じる作品です。
女性監督作だと、ディズニー&ピクサー最新作「私ときどきレッサーパンダ」(3月11日)です。監督は、ピクサーの短編「Bao」で第91回アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞した、アジア系女性監督のドミー・シーです。本作もアジア系の人々や文化をモチーフとした話になっています。