北京冬季五輪開幕を目前に控える中国が、新型コロナウイルス流入阻止に躍起になるあまり、恐怖社会化している。年末に感染が拡大した陝西省・西安市は都市封鎖が続いており、外出しただけで殴られたり、妊婦が診察してもらえず死産するなど、行き過ぎた感染対策が人の命を脅かす本末転倒な事態になっている。
「感染を拡大させたら処分される」
兵馬俑の世界遺産で知られる西安市にウイルスが持ち込まれたのは、2021年12月初旬のこと。パキスタンからのフライトで変異型のデルタ株が流入し、市中感染が起きた。12月23日に事実上の都市封鎖に入り、住民は一世帯につき1人が2日に1度、生活必需品を買うための外出のみ許される厳しい行動制限を受けている。
感染者はピークの12月31日で200人弱、2022年1月に入ると二けたまで減った。同市の人口が1300万人であることを考えると、かなり抑え込んでいると言える。それでも12月下旬には、「感染対策が不十分だった」として共産党幹部十数人の処分を発表した。その後、「感染を拡大させたら処分される」というプレッシャーからか、防疫担当者が行き過ぎた締め付けを行う恐怖社会ぶりがSNSで度々告発されるようになった。
例えば12月下旬、市内の一部地区では「2日に1度の外出」すら禁止された。玄関から外に出ただけで感染症対策のスタッフから殴られたという事件も発生し、そのスタッフは罰金刑を受けた。
妊娠8か月も病院入れず死産
そして年明け、ある市民が「元旦に妊娠8か月の家族が腹痛を訴え、110番に電話して病院に搬送されたが、陰性証明書を持っていないことから病院に入れず、2時間後に病院玄関で死産した」とSNSで訴えたことが、大きな波紋を呼んだ。
西安市と陝西省の保健衛生当局は1月6日、病院側に女性への謝罪と賠償に加え、世間にも謝罪するよう要求した。病院の責任者は免職・停職などの処分を受け、西安市の救急センターの共産党幹部も救急対応が不十分だったとして警告処分を受けた。同日の会見では保健衛生当局のトップが頭を下げてお詫びするという中国では珍しい場面があり、SNSでトレンド入りした。
この病院の親会社は上場しており、6日の株価は8%近く下がった。
同じ日には別の市民が、「61歳の父が、病院で診療拒否され死亡した」とSNSで告発した。投稿によると父親は1月2日に心臓に痛みを感じ、病院に向かった。しかし本人が感染リスクのある地域に住んでいることからいくつもの病院に診療を拒否され、症状を訴えてから8時間後の22時に受け入れ先が見つかったが、既に手遅れで翌3日に死去したという。
これらの投稿者によると、急病の際の緊急電話番号「120」(日本の119に相当)もつながらず、死産した女性もやむなく警察の110にかけている。
西安市は相次ぐ訴えを受け透析患者や妊婦などを対象に専用ダイヤルを設置し、優先して対応する方針を発表した。
北京隣接の天津でも市中感染
1月5日には、西安市のビッグデータ資源管理局の劉キン副局長(41)も、職責を十分に果たさなかったとして停職処分を受けた。
中国ではコロナ禍初期から個人の感染リスクや直近の行動履歴、PCR検査・ワクチン接種履歴が表示されるアプリ「健康コード」が普及している。感染拡大期には交通機関の利用や建物の出入りなどあらゆる移動で健康コードの提示が求められるが、12月下旬、1月上旬と健康コードへのアクセスが殺到して、一時システムがダウンした。劉キン副局長はこの責任を取らされた形だ。
感染を広げたら処分されるが、感染対策をやりすぎて市民生活に支障をきたしても処分される。感染者数は順調に減っているが、検索サイトで「西安」と入力すると予測変換で真っ先に「混乱」が表示されるほど、社会はパニックに陥っている。
1月9日には天津市でオミクロン株の「市中感染」とみられるケースが中国で初めて確認され、早速全市民1300万人のPCR検査が始まった。天津は五輪開催地の北京市に隣接しており、西安以上の厳戒態勢も予想される。
Twitter:https://twitter.com/sanadi37