秘湯の条件 飯出敏夫さんが最後に挙げる「携帯=通じない」

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はるばる訪れる価値

   国内のコロナ感染状況が落ち着き、2022年こそ近間の温泉にでも行くかと考えている人は多いはず。この別冊もそうした需要を当て込んでの企画だろう。

   飯出さんは、全国の温泉で湯守(ゆもり)たちのインタビューを続ける温泉の達人だ。その人が挙げる秘湯の目安は、専門家による最も簡潔なガイダンスである。

   表現的には「交通が不便」と「好ロケーション」の整合性など、ひと工夫できそうな点はあるが、豊かな経験に裏打ちされた説得力が頼もしい。八つの目安を強引にまとめるなら、〈はるばる訪れるだけの価値がある〉ということに尽きるのかもしれない。たどり着くまでに消耗する体力も、携帯不通の不都合も埋め合わせてお釣りがくる温泉地の魅力。それは泉質や湯量でもいいし、絶景でも美食でもいい。

   ちなみに広辞苑によれば、秘湯とは〈人にあまり知られていない温泉〉、明鏡国語辞典では〈人にまだあまり知られていない鄙びた温泉〉とある。コロナで明け暮れた旧年の疲れを静かに洗い落とすには最適の場所だろう。

   筆者が「(笑)」つきで最後に挙げた「携帯の電波が圏外」は、冗談めかしているが実は大切な要素だと思う。仕事はもちろん、煩わしい人間関係や俗世間を離れてこその秘湯である。利用者の所在や日程も、外目からは「秘」でありたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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