今後の学生に求められる判断力
――もしコロナ禍が収束すれば、学生生活の姿は「元通り」になるのでしょうか。それとも、また違った形になるのでしょうか。
高石 おそらく元通りにはならないし、ならない方がいいとも思っています。コロナ前でも、遠隔の授業は配信可能でした。ただ先生の中には、「対面こそが教育である」といった理想があり、いつでも講義を見られるオンデマンド授業などは「教育ではない」と考え、「絶対やらない」人がまれではなかった。
欧米のようになかなか普及が進まなかった遠隔授業が、やむを得ず(普及の壁を)突破したという良い面も存在します。
遠隔の方が教育効果が上がる科目と、「これは対面でないと目標が達せられない」という科目を分別していき、各科目が教育上何を目指しているのか大学側が考え直して、(授業形式を)選べるようなシステムができていくだろうと思います。
――学生たちには、どのような変化がもたされるのでしょう。
高石 「自分にとって本当にプラスになる学び方は何なのか」という判断力を養うことが必要になってくると思います。「あんまり人と関わるのが好きじゃない」と遠隔授業ばかりを選ぶと、今度は社会に出るときに困る。職種によっては「全部リモート」というわけには、今後もいかないでしょう。
総合的に考えて「遠隔の方が自分は学びやすい」という思いはあっても、どこかでバランスよく、苦手なものも取り入れる必要があると思います。
――コロナ禍で友人を作れなかった学生が、対面授業復活後のキャンパスライフへの順応に苦しむなど、新たな心の悩みは生まれることはあるのでしょうか。
高石 当然ありますし、今も、その渦中です。私はこういうたとえを使います。険しい山に登るとき、すごく緊張して安全に気を付けて行くけれど、登頂してほっとして下山する時が一番危ない。こういう登山の心構えがあるそうです。
コロナの感染状況が厳しい状態では、「今年は我慢」という思いで必死で耐えたけれど、ちょっと緩んでくると、再適応の際にいろいろなリスクが待ち構えていると思います。
ずっと人に会えるのを楽しみにしていて、「やっと解放されてうれしい」となっても、(環境の)変化も人間にとってはストレス。知らないうちに疲労がたまっていきます。無理をしやすくなり、場合によっては、(精神的に)傷ついてしまうケースもあります。そういうことを意識しておくだけでも、違ってくると思います。