犬猫に学ぶ 帯津良一さんは「執着と不安を排し 今を生きろ」と

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   週刊朝日(12月31日号)の「帯津良一のナイス・エイジングのすすめ」で、帯津医師が「猫の生き方、犬の生き方」と題して理想的な老境について記している。週刊朝日のこの号は「まるっと一冊"ねこまみれ"」と銘打ち、表紙から特集、グラビアまで猫づくし。連載陣の多くも「猫しばり」で書いている。

「私は気楽な一人暮らしで、ペットは飼っていません。しかし、猫とは付き合いがありました。その猫は『りゃんちゃん』といいます。病院(埼玉県川越市の帯津三敬病院=冨永注)の開設以来の同僚で、過日亡くなってしまった元看護師長のペットでした」

   この冒頭からしばらく、りゃんちゃんの思い出話である。帯津さんは時々、看護師長から夕食に招かれた。その猫はたいてい指定席の籐椅子にうずくまり、気持ちよさそうに寝ていた。名を呼んでも、目を開けて客人を見るだけで動かない。

   だからといって、帯津さんを忘れたわけでもない。ひとり杯を傾けていると、猫は足元の狭い隙間を「いらっしゃい」とばかりにすり抜けていく。これを親愛の情だと思えば可愛いが、その気になって背中を撫でても知らんぷりだ。

「とにかくマイペースなんですね。そのふるまいには感心します。『猫を被る』という言葉がありますが...なかなかレベルの高い行動です...見習いたい気持ちになります」
  • 愛らしい表情のネコ
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いつでも死ぬ覚悟

   では犬はどうか。「吠えてうるさいところが苦手」という帯津さんは付き合いが浅いが、愛犬家の病院スタッフに聞けば猫に劣らぬ優れ者らしい。

「とにかく犬は、人を思いやる行動をとるというのです。それは、媚びるということではなく、人の気持ちに寄り添うということなのだといいますから、感心します。それができない医者が世の中に多いことを考えると、見習いたいものです」

   筆者は介護施設や病院で活躍するセラピー犬について触れ、「犬はその本性で、人を癒やすことができるのかもしれません」と続ける。そして、まとめである。

「私は、猫、犬に共通してかなわないと思っていることがあります。それは過去や未来に執着したり、不安を持ったりしないところです」

   実はこれ、人以外の動物はみんなそうなのだという。首から下が麻痺して動けなくなれば、私たちは絶望してしまうかもしれない。ところが同じ状況のチンパンジーが淡々と生き続け、とうとう回復したという話を聞いたことがあるという帯津さん、こう結ぶ。

「つまり、今を生きることができるのです。いつでも死ねる覚悟で、今日を生きる。それが一番学びたいところです」

最終ミッション

   帯津先生、85歳にして犬猫を見習いたいという。その謙虚さこそ見習いたい。

   猫や犬に学ぶべきなのは、〈過去や未来に対し執着や不安を持たず、今を生きること。いつでも死ねる覚悟で今日を生きること〉である。雑念を排し、今だけを精いっぱい生きる...動物が当たり前にできることが、悲しいかな人には難しい。過去への後悔、未来への心配。そんなことにとらわれ過ぎると、大切な「今」が疎かになる。

   その点、猫のマイペース、犬の一生懸命は、どちらも今を生きている証拠。いやはや逆立ちしてもかなわない、というのが筆者の感慨と思われる。

   ライターとしての帯津さんにとって、2021年の最終ミッションは〈掲載誌の猫特集に付き合い、ベテラン医師の切り口で一本書く、それも「ナイス・エイジング」を指南する連載にふさわしい一本を〉だったわけだ。ペットを飼っている筆者であれば、愛猫や愛犬に触れざるを得ず、もっとべったりした作品になっただろう。

   ここではペットを飼っていないことが幸いし、客観的な視点を生かしたドライテイストに仕上がった。なにせ最後は人間まで突き放している。かといって冷たさはない。

   済んだことをいつまでも引きずらず、先の話であれこれ悩まず、今を存分に楽しもうというメッセージ。老齢の読者には刺さったに違いない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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