最終ミッション
帯津先生、85歳にして犬猫を見習いたいという。その謙虚さこそ見習いたい。
猫や犬に学ぶべきなのは、〈過去や未来に対し執着や不安を持たず、今を生きること。いつでも死ねる覚悟で今日を生きること〉である。雑念を排し、今だけを精いっぱい生きる...動物が当たり前にできることが、悲しいかな人には難しい。過去への後悔、未来への心配。そんなことにとらわれ過ぎると、大切な「今」が疎かになる。
その点、猫のマイペース、犬の一生懸命は、どちらも今を生きている証拠。いやはや逆立ちしてもかなわない、というのが筆者の感慨と思われる。
ライターとしての帯津さんにとって、2021年の最終ミッションは〈掲載誌の猫特集に付き合い、ベテラン医師の切り口で一本書く、それも「ナイス・エイジング」を指南する連載にふさわしい一本を〉だったわけだ。ペットを飼っている筆者であれば、愛猫や愛犬に触れざるを得ず、もっとべったりした作品になっただろう。
ここではペットを飼っていないことが幸いし、客観的な視点を生かしたドライテイストに仕上がった。なにせ最後は人間まで突き放している。かといって冷たさはない。
済んだことをいつまでも引きずらず、先の話であれこれ悩まず、今を存分に楽しもうというメッセージ。老齢の読者には刺さったに違いない。
冨永 格