東京・羽田空港発着の10路線3往復+指定のホテル3泊分で、3万6000円。KabuK Style(長崎市)と日本航空(JAL、東京都品川区)、ジャルパック(東京都品川区)の三社が、破格の「航空サブスクサービス」実証実験を2021年8月23日~11月23日、実施した。KabuK Styleの宿泊サブスクサービス「HafH」会員を対象に、JALの航空サブスクサービスを提供するものだ。
新千歳、釧路、山形、小松、南紀白浜、高知、長崎、宮崎、那覇、宮古の各空港の中から行きたい場所を3つ選び、専用サイトでJAL往復便の日時を確定すると、ホテルも自動的に予約される。移動手段や宿泊先を別個に確保する手間がないうえ、1往復で金額的に元が取れるに等しい。
始業前に近くの観光地を散策
記者は出張とワーケーション目的で、実証実験に参加した。
1泊2日で小松空港(石川県)に降り立った際は、金沢市内の企業を取材して回った。夜、くたくたになって指定のホテル「eph KANAZAWA」に着くと、フロントで名前を伝えるだけでチェックインできた。実証実験参加にあたって、精算を済ませているためだ。
サービスに含まれるのは1泊分だが、旅程を1泊2日にしなければならない決まりはない。宮崎空港を起点に九州出張した際は、指定ホテルとは別の宿泊施設を予約し2泊3日にした。初日、2日目は取材と移動が主だったが、最終日は始業前に宮崎県の青島へ出かけた。平日朝は人出が少なく、散策も写真撮影も自由に楽しめる。1時間ほど観光した後に、道の駅フェニックスへ移動して屋外ワーケーションした。
空き時間に観光を楽しみ、勤務時間は意識を切り替えて仕事に集中する。割り切った働き方が求められるが、普段とは異なる環境や開放的な空間での業務は、良い気分転換になり、記者は原稿がはかどった。
新しいワークスタイルの提案
この実証実験は、場所に縛られずに働く「デジタルノマド」や、従来の出張とは異なる「ワーケーション」など、コロナ禍で増えた新しいワークスタイルの提案がねらいだ。
KabuK Styleの大瀬良亮社長は、リモートワークについて「多様化するライフ・ワークスタイルに応じ、好きな場所や自分らしく過ごせる環境で働いた方が仕事ははかどる」と考える。「旅をしながら働く」と、朝や夜、日中の休憩時間を、その土地でしかできない体験に当てられる。
「以前、仕事で世界中を飛び回っていた際、『場所を問わず働く』日々を過ごしたことから、リモートワークの楽しさに気づきました。各地には、著名な観光スポット以外にも魅力的な場所がたくさん。現地に数日間腰を落ち着け、地域の人々に溶け込んで初めて見えてくるものが仕事に生きることもあります」
働く場所をこまめに変えたい人だけでなく、「家族から離れて一人の時間を作りたい」人の利用もあったという。ビジネスはもちろん、プライベートを充実させる活用法だ。大瀬良社長は良い意味で人と距離を取り、自分を整える「ポジティブ家出」と呼んでいるそう。
大瀬良社長によると、今回の実証実験で得たデータをもとに、より利用しやすい内容に改善し、次回以降の企画に役立てたい考えだ。
宮古島から「東京にいる体」で社外と会議
実証実験の参加者から体験談を聞いた。東京の会社に勤務する20代の営業社員、林拓真さんと松本知也さん。業務が落ち着くタイミングを見計らい、9~11月に月1ペースで2人一緒に旅行した。行き先は新千歳、宮古、小松。土日祝を絡め、有給休暇も取りながら各4泊5日で日程を組んだ。
「その土地ならではの食(ローカル飯)とサウナが毎回の目的です。インターネットで調べても出てこない、現地の住民だけが知っているおいしい食どころを探すのが楽しいですね。居酒屋で近くの席にいた人に話しかけてみたり、ホテルのフロントで雑談をしたり」(松本さん)
「『HafHを利用して泊まりにきたんです』とホテルの人に言うと、興味深そうに話を聞いてくれます。2019年に始まった新サービスなので、利用者の思いを知りたいのかな。そのやりとりがきっかけで、貴重なローカル情報を手に入れられることもあります」(林さん)
沖縄・宮古島だけは、林さんと松本さんを含めた6人で遊びに行った。4人が観光に出かけている間に、残りの2人はホテルにこもって仕事をする過ごし方も経験したそうだ。「友人が仕事をしている姿を見て、新しい一面を発見できた」と林さん。松本さんは「デジタルノマドが2人いたので、こういう働き方ができるのかと新鮮でした。将来のキャリアプランについて選択肢が広がりましたね」と話す。
充実した旅になった一方、ある「困りごと」もあった。休日に、仕事が入ったときのことだ。
「社外との会議が決まって、少し慌てました。打ち合わせに使える場所を探すのが大変で...。東京にいる体で、天気や気温の話を合わせました」(松本さん)
「同僚として、松本と同じ時間に会議に参加することもあったので、オンライン会議ツールでお互いの声が入ってしまうと邪魔になってしまうと考え、別室に移動して対応しました」(林さん)
リモートワークやワーケーションの普及率、そのイメージの良し悪しには差がある。取引先に失礼にならないように、との考えがあっての行動だった。この点について松本さんは「デジタルノマドの友人は、打ち合わせ相手に『今〇〇で仕事をしている』と現在地をオープンにし、話題の一つにしていた。今までは考えられなかった働き方を間近で見て、刺激を受けました」と述べた。