米マイクロソフトが提供するウェブブラウザ「Microsoft Edge」。Windows 10と11に標準で搭載されている。だが、2021年12月14日現在、世界のウェブブラウザの使用率では「Google Chrome」に及ばない。
この状況を打開しようとしているのか。マイクロソフトは近ごろ、Edgeの使用をユーザーに促進させるような動きを見せている。Edgeのシェア拡大に必死のようだ。
標準の検索エンジンで「Chrome」と検索すると
OSなどの使用率を集計している海外サイト「Statcounter」によると、スマートフォン・パソコンを含め、21年11月の世界中のブラウザ使用率はChromeが64.06%でトップ。2位がSafari(19.22%)で、Edge(4.19%)は3位。パソコンに限定しても、1位がChrome(66.38%)で、Edge(9.52%)はここでも3位だ。
Windows 10で標準ブラウザを変更する場合、「Windowsの設定」から「アプリ」→「規定のアプリ」と開き、「Webブラウザー」の項目でChromeなど任意のソフトウエアを選べばよい。ところが11では、一括で標準ブラウザを変更することができない。「規定のアプリ」を開くと、指定項目が多数出てきて、ファイルの種類ごとにいちいちブラウザを設定しなければならなくなった。この点、21年10月22日付「ASCII.jp」記事でITライターの柳谷智宣氏が詳しく説明している。
同記事によれば、新しいブラウザをインストールした直後に、どのブラウザを選ぶか尋ねる表示が出る。そこでは、簡単に規定ブラウザを切り替えられる。ただしチャンスは1度きりだ。
また「11」と「10」でEdgeを開いてデフォルトの検索エンジン「Bing」を利用し、キーワードで「Chrome」と検索すると、Edgeの利用継続を促すマイクロソフトのメッセージが表示される。この仕様は、SNS上などで話題となっている。記者も12月14日に「10」でこの手順を試した。検索結果には「新しいWebブラウザーをダウンロードする必要はありません」とのメッセージが表示された。
カギはスマホの普及
ITサポートエンジニアの古賀竜一氏に取材した。佐賀県で「あんしんパソコン相談室」を運営している。Edgeが広く普及できていない理由を分析してもらった。
Chromeブラウザは、米グーグルのスマートフォン(スマホ)向け「Android OS」に標準搭載されているブラウザとして組み込まれ、Androidスマホの普及に連動してシェアを広げた。運用には「Googleアカウント」をベースとすることで、ユーザーはスマホ版・PC版の双方でChromeの情報を容易に連携させて利用できる。この利便性も普及につながった。
一方のEdgeは、スマホと連動して普及するという道を歩めなかった。さらに、初期のEdgeではセキュリティー上の脆弱性が多発したり、最新のウェブ環境への対応が遅れたりすることもあった。これもChromeへのユーザー流入につながったという。
古賀氏は、Edgeの利用率が低いことへの「焦り」がマイクロソフトにあるのではないかと推測する。自社ブラウザを通してユーザーの利用実態を知ることは、広告ビジネスや自社製品開発にも非常に重要な要素だと考えられるという。
ところでEdgeは2020年に、ライバルのはずのChromeでも用いられている「Chromium」というコードベース(プログラムの設計図にあたる「ソースコード」の集合体)を基盤として再開発・正式リリースされた。古賀氏はこれをマイクロソフトなりの「苦肉の策」だと評する。
古賀氏によると、「Chromium」を利用して開発すれば、独自仕様のブラウザにこだわった場合と異なり、開発費のコスト低減や他社のソフトウエアとの互換性が得られるといったメリットを享受できる。
「このようにして身を切る改革でEdgeをリニューアルしたのなら、それなりの成果も出さないといけないということで、今の積極的なEdge推しが始まっているものと思います」
今後もEdgeがChromeのシェアを超えることは「難しい」とみる。ただ、グーグルは検索エンジン市場などでのサービス運用において反トラスト法(独占禁止法)に違反したとして、米国などで提訴されている。古賀氏によると、Chromeに対しても、独禁法などとの関係でその存在を問題視する向きがある。Edgeとのブラウザ競争の行方は「今後の情勢次第」とした。