棋士の誕生日 杉本昌隆さんに弟子から四冠達成のプレゼント

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あえて引き立て役に

   本作の表題は「最高の誕生日」。夫婦の誕生日がたまたま同じ、というノロケまじりの序盤から一転、厳しい生き残り競争を解説する中盤、さらには自慢の弟子が大一番を迎える終盤へ。攻めあり守りあり、最後のズッコケまでサービス精神あふれる随筆となっている。棋士には、書いても喋っても巧い人が多いが、杉本さんの文才もなかなかだ。

   年齢との競争を強いられる棋士の卵にとって、誕生日は「残り時間」を意識させられる節目。それを乗り越えてようやく「普通に」祝えるようになる。神経がヒリヒリするような現実があるからこそ、棋士の誕生日は味わい深いのだ。

   杉本さんにとって、特殊な状況で迎えた今年の誕生日は忘れられないものになった。しかし、それを漫然と綴るだけではトップ週刊誌の読み物には値しない。

   晴れの場で弟子がどう言及してくれるのか...そわそわと期待する己の姿を正直に、面白おかしく記す杉本さん。文中、あえて三枚目を演じることで、藤井さんの引き立て役に徹している。弟子は弟子で、師匠へのフォローを忘れない。

   その夜、杉本さんが初めて藤井さんを祝福したのは、ホテルの部屋を結ぶ内線電話だったという。人間的にもステキな師弟関係である。

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   お陰様で「コラム遊牧民」も今作で連載200回。節目恒例の、引用元まとめを共有させてもらいます。まず作品を引用させていただいた筆者の性別ですが、男性58%に対し女性42%。引用回数が多いのは五木寛之さんの6回を筆頭に、鴻上尚史さん、平松洋子さん、ジェーン・スーさんが各5回、土屋賢二さん、小島慶子さん、鎌田實さん、松重豊さん、金田一秀穂さんが各4回など。掲載誌では週刊文春(17回)週刊朝日(13回)週刊新潮、サンデー毎日(各12回)週刊現代(9回)週刊ポスト、女性セブン(各7回)という順番です。 引き続きご愛読ください。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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