2016年4月14日に発生した熊本地震でやむなく休業に追い込まれ、5年の時を経て営業再開した、うどん・そば専門店が熊本県南阿蘇村にある。熊本地震による土砂崩れで崩落し、21年3月に開通した新・阿蘇大橋近くに位置する「うどん家 あそ」だ。
前震ではさほど大きな被害が出なかったものの、本震で店内には調理器具や皿が散乱し、客席も厨房も見る影もなくなってしまった。店主である飛瀬正文さん、飛瀬ひとみさんが店を建て直し、21年5月4日に営業再開すると地元紙に取り上げられるほどの話題に。コロナ禍での再出発から半年ほど経った店を取材した。
阿蘇山噴火も「またか」
「うどん家 あそ」は飛瀬夫妻と娘の3人で切り盛りしている。記者は開店(11時半)と同時に入り、えび天うどんを注文した。客席間が広く取られ、新型コロナウイルス感染対策に気を遣っている様子がうかがえる。運ばれてくるまでの数分間で、一組、二組と次々に利用客がやってきた。厨房に向かって「こんにちは」「また来たよ」と声をかけていく様子からして、常連らしい。
取材に応じてくれた飛瀬ひとみさんによると、「新型コロナウイルスのせいで客足が鈍い」とは感じていないという。10月20日には阿蘇山が噴火したが、「この辺りの人は『また噴火したか』くらいの認識。それでお客さんが来なくなることはないです」。順調な半年間になったようだ。
「店を始めたのは1989年3月です。アルバイトを雇っていた時もありますが、基本的には主人と二人三脚で営業してきました。本震で店内に食器が散乱し、足の踏み場がなくなっただけでなく、天井が落ちたり、厨房の床やトイレの壁がひび割れたりしました。電気も水道も来なくなり、電話も繋がらなくなって、やむなく休業したんです」(ひとみさん)
被災直後は、車中泊を余儀なくされた。たまたま、車内をフラットにできるタイプだったため、布団を一枚敷けるだけの広さがあった。やがて仮設住宅に入り、出られたのは今から2年前だ。5年かけて店内を片付け、正文さんが天井や壁を補修し、現在の姿にした。以前は別の仕事に携わっていた娘さんが営業再開に伴って店の手伝いに加わり、これまでと同じ場所で、3人での再スタートを切った。