「甘えていい」と思えるように
「ご経験上、避難所で多かった改善要望は、何がありましたか」
この質問に辛嶋さんは、しばらく黙って考えたのち「感覚的なものですが」と前置きして、こう答えた。
避難所生活初期は、多い順に「情報」「睡眠」「食事」。時間が経つと「情報」「食事」「睡眠」となる。「睡眠」とは、音や電気が気になるといった安眠にかかわる相談が多いそうだ。
情報については、在宅避難した人からも同様に要望が寄せられるという。例えば、行政からのお知らせをプリントで渡されるだけでは、避難者は理解しているとは限らない。仮設住宅がいつできるか、支援制度はどうなるかといった重大な関心事が、審議のプロセス共有なしに決定内容だけを突如聞かされるだけでは、被災者は不安になる。
避難所生活が長引けば、心身のバランス維持が大切になる。「音が出るのを気にして、夜間に洗濯機が使えない」「弁当の配布時間に帰宅が間に合わず、経済的に負担だ」――。ひとつひとつは小さな不満かもしれないが、「当たり前のことが当たり前にできないつらさ」が蓄積されると、心の負担も増大する。
辛嶋さんは、まず避難者自身に相談相手がいるか確認する。仮にいなければ誰かが話し相手を務める体制をつくる。日々、その人の状況を把握するのが大切なのだ。合わせて、本人の「居場所づくり」を重視し、避難所を運営するうえでの役割を担ってもらう。「人は頼られるとうれしい。『自分はここにいていいんだ』と思えるようになります」。これにより、被災した当初は落ち込んでいた人でも、徐々に明るさを取り戻すケースがあるという。
災害に見舞われて自宅に住めなくなり、長期の避難所暮らし。ただでさえ「緊急事態」なのに、不便な日々が続けば、その後の生活再建に向けて心身が十分に回復しない。被災前の「普通の暮らし」ができる水準を保てるようにすること、生活の建て直しができるまでの「猶予期間」として「甘えていい」と避難者自身が思えるようにすること。こういう意識を住人、市民、行政も持つことが大切だと、辛嶋さんは指摘する。
(J-CASTトレンド 荻 仁)