プロ野球のFA(フリーエージェント)市場が停滞している。2021年度の国内・国外FA権の保有選手は、計97人だ。21年12月8日公示によると、FA宣言を行ったのは中日ドラゴンズ・又吉克樹投手、横浜DeNAベイスターズ・大和内野手、埼玉西武ライオンズ・岡田雅利捕手の3人に留まる。
さらに、大和内野手、岡田捕手はすでにFA権を行使した上での残留を表明。現状、移籍を視野に入れたFA宣言は、又吉投手のみだ。
MLBは宣言不要で自動的にFA
今オフの動向が注目されていた国内FA権取得選手として、DeNAの宮﨑敏郎内野手や阪神タイガース・梅野隆太郎捕手、広島東洋カープの大瀬良大地投手らが挙げられる。読売ジャイアンツの菅野智之投手は、海外FA権を取得した。だが誰も権利を行使せず、残留を表明した。
2019年11月5日付「フライデーデジタル」によると、米大リーグ(MLB)の選手は6年間、一定期間ロースター(名簿)に名前が載るとFA権を取得する。その選手は、日本のように宣言をせずとも自動的にFA状態となる。例年200人以上がFAになるという。
日本プロ野球の21年度のFA公示では、権利行使者は3人。移籍の可能性があるのは又吉投手だけだ。過去3年間を見ると、FA権を行使したのは18年度が5人、19年度は6人、20年度は7人。うち移籍した人数は順に4人、4人、2人だった。
スポーツライターの小林信也氏に取材した。上述のフライデー記事内でも触れられているが、FA行使者が少ない背景には「宣言をしなければならない」というハードルが存在する点にあるという。「球団を出ていく」と宣言することで、周囲からの批判やプレッシャーに直面しなければならない。
また、日本ではFA権を取得できるまでの期間がMLBよりも長い。高卒入団では最低でも8年、大学・社会人では7年を要し、取得時点で30歳を超えることも多い。すでに選手としての全盛期を過ぎていた場合、「FA権を行使してもどこも契約してくれなかったら......」と不安を感じる選手もいるのではないかと分析する。
球団との事前交渉が禁止されていることもハードルだ。どのチームが獲得してくれるのかわからない状態でFA宣言をしなければならず、選手からすれば「不親切」な制度だと小林氏。FA選手を取得した球団が「対価」として、移籍元に支払う人的補償や金銭的補償の存在も大きい。金銭面などで余裕がある球団しかFA戦線に乗り出せないため、選手からすると移籍先の選択肢が減る。
コロナ禍で球団経営が悪化
特に今年はFA市場が停滞している背景も聞いた。近年、FA権を行使した選手が移籍後大活躍するケースがあまりないことから、FA宣言へのモチベーションも薄いのではないかと語る。また、新型コロナウイルスの影響で無観客試合や入場者数の制限が続き、どの球団も経営状況が悪化した。FA選手の獲得に対しては消極的な可能性があるため、それを察した選手側がFA宣言をしづらいのではないかと小林氏は指摘した。
現在の制度体制が続く限り、今後もFA市場の停滞は改善されないと小林氏は見る。活発化させるには、FA取得までの期間を短くすること、FA宣言というシステムをなくし、取得期間を満たせば自動的にFA状態となるようにすること、そして人的・金銭的補償を緩和することの必要性を挙げた。