【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
中国の吉野家で、使い回した油や賞味期限が切れて酸っぱい臭いを放つ肉が使われていると、2021年11月下旬、動画で告発がありSNSで拡散した。
この事件について吉野家のSNS公式アカウントが「この吉野家はうちの吉野家ではない」的なコメントを発表したことから、中国人消費者は「意味不明」だと混乱に陥った。背景には、中国における吉野家経営を巡る若干複雑な事情があった。
公式アカウント「わが社の経営範囲外」
11月29日、吉野家の店舗内で消費期限切れの食材が使われ、麻婆豆腐のひき肉は既に酸っぱい臭いがし、油は使い回しで黒ずんでいるとの告発動画が中国のSNSウェイボ(微博)に投稿され、炎上した。
騒動を受けてウェイボの吉野家公式アカウントは同日夜、「状況説明」というタイトルの文書を発表。その中で、こう釈明した。
「吉野家は中国でさまざまな会社によって運営されている。北京市、天津市、河北省、河南省、内モンゴル自治区、東北三省の吉野家は合興餐飲集団が運営している。動画で告発された吉野家は、わが社の経営範囲外だ。ではあるが、当社も自己検査チームを立ち上げ、店舗の点検をする」
文書には「合興餐飲集団」の印章が押されていた。
この内容にユーザーは混乱。
「動画で告発された吉野家が経営範囲外ってどういうこと?」
「何で謝らないの?」
「私はIQが低いから何度読んでも意味が分からない」
などとリプライが殺到した。
翌30日、吉野家(中国)投資有限公司は公式サイトで「お詫び」文書を発表。動画で告発された安徽省の店舗を営業停止にし、緊急品質管理専門チームを立ち上げたことや、他の店舗も一斉検査を行うと説明した。また、店舗のある安徽省の当局から行政指導を受けたことも明かした。
南北で異なる運営企業
消費者にとって「吉野家は吉野家」である。だが、中国進出が早かった吉野家の運営形態はややトリッキーだ。
吉野家は1992年に北京に1号店をオープンし、その後全国に店舗を広げた。2000年代に中国に進出した日本の外食企業は多かったが、成功したのは吉野家、サイゼリヤなどごく一握りだ。吉野家は当時、上海、深セン、福建省などエリアごとに現地の大手企業と合弁会社を設立し、「中国という巨大市場をエリアごとに分け、現地事情を知っている企業と組んでローカライズ化した」ことが成功要因と評された。
その後、吉野家の日本本社は中国事業の効率的な運営のため、2015年に統括子会社「吉野家(中国)投資有限公司」を設立。北京や東北地方は以前からフランチャイズ契約を結んでいた合興餐飲に経営を任せ、吉野家(中国)は中国南部を中心に店舗展開するようになった。
現在、吉野家の店舗は中国に約550店あるが、うち約390店舗(2020年末時点)は合興餐飲傘下にある。今回の問題は吉野家(中国)が2019年に進出した安徽省の店舗で発生した。
何か話題になったときにはSNSで拡散も炎上もする時代。一般消費者は吉野家の運営企業が地域によって違うなど知る由もなく、合興餐飲が運営する「吉野家公式アカウント」には、告発動画の公開後に苦情が殺到していた。合興餐飲にしてみれば「巻き込まれ事故」だったのだろうが、吉野家ブランドを看板にしている以上、もう少し丁寧な説明があっても良かったのではないかと感じた。
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