知りたくなかった 梅沢富美男さんが悔やむ小椋佳「名曲秘話」

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自分を三枚目にして

♪一度も咲かずに散ってゆきそうな バラが鏡に映っているわ...

   ふられた少女の繰り言だと思っていた歌詞が、実は合併劇に巻き込まれた若手行員の恨み節...という種明かし。しかし、それを知った上で聴き直すと、冷徹な経営戦略に翻弄されるサラリーマンの悲哀までが歌詞の行間に滲み、味わい深いものがある。

♪あなたの心の ほんの片隅に 私の名前を残して欲しいの...

   いまでは「第一」「勧銀」とも、行名としては残っていない。

   いたずら心あふれる名曲の誕生エピソード。作者がメディアで触れたせいか、今でこそ一部には知られた話らしい。とはいえ40年前に聞いた梅沢さんは驚いたに違いない。

   上記エッセイのタイトルは「人間、聞かないほうがいいこともある」。この結論に導くために、前段でお嬢さんの三味線の話から自身のギターへとつなぎ、ラジオで知った小椋ワールドの感動体験に至る。そして思いもよらぬ結末。なかなか手の込んだ構成だ。手数をかけているので、当人の裏話を聞いた梅沢さんの落胆も共有できる。

   自らの「がっかり」を強調して、つまり三枚目になることで読者を楽しませるサービス精神...生まれながらの役者らしいと感心した。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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