専門家の指摘で「株」に
英語では、今回の新たな変異株は「The Omicron variant」。日本語では「オミクロン株」と表記されることが多い。なぜ株というのだろうか。
これについては、日本感染症学会が1月29日、英国で出現した変異株の表記に関連して、報道機関にあてた「変異『種』の誤用について」が根拠になっている。
「国内の報道においては、変異"種"という表現が一部報道機関で統一して用いられているようですが、これは学術的には誤用となりますので、今後は変異"株"と正しく表記していただきたくお願い申し上げます」
「突然変異はすべての生物において、遺伝子の複製過程で一部読み違えや組み換えが発生し、遺伝情報が一部変化する現象です。
この中で、新しい性質を持った子孫ができることがあります。この子孫のことを変異"株"と呼称します。変異株は、変化した遺伝情報の影響を受けた一部の性質が変化していますが、もともとの生物の種類は変化していません。この場合、同じウイルスの複製バリエーションにすぎませんので、ウイルスの名称は変化しません」
「しかしながら、極まれに近縁の生物種の間で多くの遺伝子の交換(組み換え)が起きると、2つの生物種の特徴を併せ持った新しい生物種が誕生することがあり、その場合には変異"種"と呼称します。この場合、新型のウイルスが誕生することになるので、新しいウイルスの名前が与えられます」
「今回の変異株は、新型コロナウイルスのスパイクタンパクにN501Yという特異的な変異が起こり、宿主細胞への感染力が強くなったという性質の変化がありますが、元来もっていた新型コロナウイルスの基本的特性はほとんど引き継がれておりますので、依然として新型コロナウイルスのままですので、変異"株"と呼称すべきです」
「誤った知識は、些細なものであってもしばしば誤解を生じ、差別や偏見につながっていくものもあります。ましてや科学的専門用語については、たとえ1文字の違いであっても、大きく意味がことなることがあり、より一層の注意が必要です。今回の新型コロナウイルス感染症では、これまでにも感染者や医療従事者に対する様々な差別が起きており、新型ウイルスが発生したかのような用語を用いることは、今後に新しい差別を引き起こす可能性もあります。このような場合には、単なる誤"用"ではなく、誤"報"と同じ意味を持ちかねません。
以上のことから、国民の科学リテラシーを正しく引き上げるためにも、正しく用語を用いていただければと存じます」