「床上まで水が来ると、ガックリきますね」
玄関先で「どうぞ、おあがりください」と促され、靴を脱いだ。入ってすぐの部屋に入ろうとして、足を止めた。
床と壁の木材がむき出しとなっている。床に置かれたベニヤ板を歩いたら、危うく踏み抜きそうになりよろめいた。廊下を渡って別の部屋も同様で、壁には水を吸ったと思われる断熱材がそのままになっていた。床下の土が見える。浸水したため、乾燥させている最中なのだ。
「家族と、水に浸かった家財を外に出していたら、カエルやムカデが家の中にいっぱい、流れ込んできていたんですよ」
こんなエピソードを明かしたのは、千綿健司さん(50)。すべてが泥だらけで、片付けに疲れても「座って休憩する椅子がない。洗濯もできない。床上まで水が来ると、ガックリきますね」。
大雨の夜、高齢の両親と妻はボートで救助してもらい、自身は家の2階に避難した。家族全員無事だったが、2年前の水害からようやく修復した自宅はまたも水にのまれた。
住み慣れたこの土地を離れるつもりは、ない。だが「(水害は)毎年来ると思って住まないと」と覚悟している様子だ。自宅の再建も、「次」を見越してのものとなるようだ。一方で、足元の生活では水に浸かった部屋の床や壁がまだ未修理状態。「これから寒くなりますが」と水を向けると、「そうなんですよね。家の外から見るとなんともないのに、中に入るとまだ...」と困った顔になった。
大雨が続いた夏から時は過ぎ、今では秋から冬へと季節が進んでいる。個々の暮らしを取材すると、一見しただけでは分からない3か月前の爪あとが、町のいたるところで刻まれたままだった。
(J-CASTトレンド 荻 仁)