枕に叫ぶ女 菊池亜希子さんは自己嫌悪に陥るたびに顔をうずめ...

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成長の伸びしろ

   リンネルは宝島社の女性向け月刊ファッション誌、このエッセイは今作で59回目という長期連載で、39歳の菊池さんが、仕事や子育ての日々をつづっている。

   枕に顔をうずめて後悔する...いかにも女性を連想させる仕草である。男性がしない所作というわけではない。ただ、ひとり後悔する時も男なら、もう少し格好をつけるのではないか。私のような俗物はなおさらだ。

   就寝前、現にこれをやる女性はそれほど多くはないにせよ、職場でもプライベートでも、人間関係で苦労する30~40代の女性なら「あるある」のひとつと思われる。

   菊池さんが「どうやっても風化しない」という20年前のエピソード。筋だけ拾えば大した話ではないように思えるが、そこは当人にしか分からない「恥に対する感受性」のようなものが作用するはず。言葉を発した直後に反省できるのは成長の伸びしろがある証しで、作中の表現を借りれば「新たな自分との出会い」が期待できるということだ。

   思うに、中高年で地位のある人ほど、後悔はしても反省はなかなかしない。すなわち、自己嫌悪が成長につながりにくい。そもそも自己嫌悪なんてものを知らない。

   そう、枕に叫べるうちが花なのだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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