【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
中国最大の火鍋チェーンで、日本でも店舗を展開する「海底撈火鍋(かいていろうひなべ)」が2021年11月5日、経営不振を理由に年内に約300店舗を閉鎖すると発表した。コロナ禍の長期化を予測できず、積極出店したことがあだになったという。
「神接客」ぶりが話題に
海底撈は中国の「火鍋レストランランキング」常にトップにある有名チェーンだ。日本でも2015年に東京・池袋に進出したのを皮切りに、千葉、神奈川、大阪、福岡などに店舗があり、中国人に「お勧めの火鍋店教えて」というと、真っ先に名前が挙がる。2018年には香港証券取引所に上場し、「火鍋レストラン上場1号」にもなった。
海底撈の成功の要因は、「接客」で差別化したことだ。案内待ちの時間は無料でネイルサービスを受けられ、食事中もスタッフによるパフォーマンスを楽しめる。
さらにSNSには「店員が子どもの宿題を見てくれた」「咳をしていたら店員がおかゆを持ってきてくれた」「店の外で喧嘩が始まったので見物していたら、店員が椅子とお菓子を持ってきて、喧嘩の原因まで調べてくれた」など、客の体験記が並んでいる。
創業者の張勇氏が1994年に四川省で始めた個人経営のレストランは、SNS時代に入ると「神接客」ぶりが広く伝わるようになり、2021年6月末時点で国内外合わせて1597店を出店するまでになった。
コロナ禍も800店舗以上「逆張り」出店
ではなぜ、今回の大量閉店に至ったのか。張勇氏は2021年6月の決算会見で、「2020年6月時点で、コロナ禍は9月に収束すると考え、規模拡大のチャンスととらえた。それがアジアではいまだに収束する気配がない。今思えば当時の判断が楽観的すぎた」と判断の誤りを認めていた。
決算資料などによると、海底撈はコロナ禍でテナント料が下落したのを「投資の絶好機」とみて、逆張り戦略で2020年に544店舗、21年上半期に299店舗を新たにオープンした。つまりこの1年半で店舗数を一気に倍増させたのだ。
だが、中国では感染はさほど拡大していないものの、「ゼロコロナ戦略」の影響で、クラスターが発生すれば即営業に支障が出る状況が今も続いている。また、急激な規模拡大でスタッフの育成も追いつかず、経営効率やサービスの質も低下したという。
海底撈の11月10日時点の時価総額は約1125億香港ドル(約1兆6447億円)で、今年2月のピーク時から4分の1まで落ち込んでいる。
今回の大量閉店発表で気になるのは日本の状況だ。日本の店舗は、緊急事態宣言中は軒並み休業しており、10月に営業を再開した。中国の飲食企業にとって海外店舗はブランディングの役割もあり、中国店舗と同じ基準で撤退することはないだろうが、「行ってみたいと思っていたが、コロナ禍でなかなかチャンスがなかった」という人は、今のうちに足を運んだ方がいいかもしれない。
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