旧車と環境問題 下野康史さんは問う「長く乗ってもダメなのか」

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これくらい許して

   下野さんの問いは明らかだ。ガソリン消費は環境の敵だが、モノを長持ちさせる行為は環境に優しい。ならば、すでにあるガソリン車に「細く長く」乗ることは環境(活動家)にとってどうなのか。滅びゆく輸送機械を大切に扱うことをどう考えるのかと。

   実際、環境保全の活動に賛同し、グレタさんを支持する旧車好きもいるはずだ。私も実車こそ持っていないが、そんな一人である。下野さんの言う「脂が落ちた」車体に身を委ね、そろりそろりと転がしているオーナーは多い。

   彼らの本音は「ささやかな趣味なんです。これくらい許してよ」だろう。

   仕事でも遊びでも、長く同じ車に乗っていれば情が移る。一心同体とまではいかなくても、家族の一員のような存在になる例は多い。メンテナンスの費用がかさむ旧車を、その余裕のあるオーナーたちが乗り継いでいく。すっかり自動車大国となった日本に、専門誌が成り立つほどの旧車文化が根づくのは自然な成り行きだろう。

   さて、長くてあと10年、ドライバーとしての私はガソリン車たちと一緒にクルマ社会から退場することになる。残るのは穴の開いた免許証と、記憶の中の愛車たち。懐かしい顔との再会を期待し、新刊の旧車誌を繰る...なんて素敵なエコ老後だろう。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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