当時の受験生は後期高齢者に
受験参考書には二つのタイプがある。一つは、学者として著名な大先生が力を入れて執筆しているケース。もう一つは、「受験のプロ」がノウハウを駆使して作成したケース。最近では予備校の先生などが書いた後者が主流だが、復刊されるのはいずれも前者だ。
若くして日本学士院賞を受賞し、海外の大学でも教え、のちに文化功労者にもなった小西氏は、学者がきちんとした参考書を書く意義を『古文研究法』の中で書いている。
「これからの日本を背負ってゆく若人たちが、貴重な青春を割いて読む本は、たいへん重要なのである。学者が学習書を著すことは、学位論文を書くのと同等の重みで考えられなくてはいけない。りっぱな学者がどしどし良い学習書を著してくれることは、これからの日本のため、非常に望ましい」
最近は英語の参考書でも復刊本が出ている。東大で英文学を教えた朱牟田夏雄(1906~87)氏の『英文をいかに読むか』は、2019年に研究社が復刊している。「学参」のレベルを超えた、大学の教養課程並みの高度な英文解釈本として有名だった。
一橋大で英語を教えた佐々木高政(1914~2008)氏の『和文英訳の修業』も来年2月に金子書房から復刊されるそうだ。初版はなんと1952年だという。
同書の冒頭には「暗記用例文500」が掲載されている。これを必死になって覚えた受験生たちの多くは、今や前期・後期の高齢者になっている。