政治家のツイート 能町みね子さんは地震発生時の「揺れた」に注目

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   週刊文春(10月21日号)の「言葉尻とらえ隊」で、能町みね子さんが政治家のツイッター発信を「四派」に分けて論じている。

「ツイッターウォッチャーの私としては、新首相誕生のタイミングで、岸田文雄および今回の総裁選候補者、ついでに主要各党代表のツイッターをほじくってみたい」

   能町さんは岸田政権発足の直後、10月7日深夜に首都圏を襲った強い地震に注目する。久々の帰宅難民を生んだ緊急事態を受けて、政治家はツイッターで何を発信したか、そこから大まかな傾向のようなものが浮かんでくるのではないか...そんな発想か。ちなみに文春の原稿執筆は、地震発生から約12時間後だったそうだ。

   まず岸田首相。〈最新情報を確認しつつ、命を守る行動を取ってください〉と最小限の言葉を発し、官邸に入った。「全体的にイメージどおり無難で、硬すぎず柔らかすぎず」。立憲民主の枝野代表や、国民民主の玉木代表も、発信が早いという意味で「岸田派」と認定された。ツイッターの特徴である速報性を生かしているのだという。

   自民党の政調会長になった高市早苗氏は、地震の約10分前に〈3日間も殆ど徹夜が続き、ハードです〉とツイートしていたが、地震には即応せずじまい。平時から人間性を見せつつ政策を訴えているのだが、ツイッターの瞬発力を生かせていない。共産の志位委員長、そして意外にも、れいわ新選組の山本太郎氏も同様と見る。

   菅前首相や公明党の山口代表のツイッター発信は、「語るほどのことがない。とにかく元気がなく死にかけです」と厳しい評価を下された。

  • 「いいね」が欲しくなる
    「いいね」が欲しくなる
  • 「いいね」が欲しくなる

河野氏こそ正統派?

「さて、ツイッターに取りつかれているのは当然この人、河野太郎」

   河野氏は地震には反応せず、翌朝「朝から広報本部で打ち合わせ」と仕事人間をアピールした。「彼は支持者の褒め言葉をすべて真に受け、批判は罵倒と同一視してブロックし、ツイッターの罠にハマって『オレだけの楽園』を作り上げ、気持ちよくなっていたら総裁選に落ちました」。能町さんの見立てでは、維新の松井代表も「河野派」である。

「彼は他党や一般人にケンカを売っていくスタイル。ケンカせずブロックする河野とは流儀が違うものの、やはりツイッターに取りつかれています。さて、もう1人、強力な河野派がいる。NHK党の立花孝志です。なんとこの人、地震の瞬間に『地震だ』とだけ書いている。絵に描いたようなツイッターユーザーだ!」

   能町さんの理解によると、地震のたびに「揺れた」「怖っ!」など、生理的叫びに近いものを意味もなく発するのが「正統派のツイッターユーザー」となる。

   河野氏もこれから、この種のどうでもいいことを書けばいいのにと思った筆者。念のため過去の河野ツイートを調べたところ、2013年9月4日の地震で「揺れた!」と投稿していたそうだ...「さすがツイッター中毒者」との結びである。

点呼にも似た儀式

   政治家のツイートを正面から分析する試みはたまにあるが、新政権を見舞った地震をネタに一本書くところが能町さんらしい。何よりコラムニストに必須なのは、あらゆる事象を面白がる精神だ。数本のツイートで本質は分からない、なんてことは百も承知で。

   さて、能町流の「地震ツイ診断」によれば、ツイッター使いのホンモノは「河野派」だ。「取りつかれている」「中毒」という尖った表現で、ネット空間での投稿が日常生活の一部、あるいは政治活動の重要手段になっていることを指摘する。

   他方、岸田氏や枝野氏ら党首級がそろう「岸田派」は、ツイッターの特徴である速報性を自覚しているものの、発信は自らの政治主張が軸。河野氏らに比べ穏健である。

   速報性に難がある「高市派」は、視聴に一定の時間をとらせる動画での主張が交じるのが特色で、遅いうえ支持者意外には届きづらいという。

「高市・山本の2人はネットで支持を集めているイメージがあるので、意外です」

   私も相当なヘビーユーザー(河野派?)である。確かに地震の時、書き込める状況であれば「揺れたよね」などと呟くことがある。そして、意味のないこのツイートに少なからぬ「いいね」がつく。こうして、同じ地域、同じ国で仲よく大地に揺さぶられた「共感」がネット空間に広がり、たいていの場合、ほどなく雲散霧消していく。

   思うに「いま揺れた」はある種の生存証明であって、それに対する「いいね」は「私も生きてるよ」と返す点呼のような儀式ではあるまいか。河野氏はどうか知らないが、ツイッターを多用する人には寂しがり屋が多いのかもしれない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

姉妹サイト