上海蟹の季節 土田美登世さんは胸を痛めつつ蒸籠を見て全て忘れる

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食レポも読みたい

   どれほど名高い食材や料理であろうと、それ「単品」で随筆を組み立てるのは難しい。すでにベテランの域に入った土田さんは手慣れたもので、旬を迎えた上海蟹の周辺を、雑学を織り込みながら過不足なくまとめている。

   土田さんが初めて食した上海蟹は、東京・大門の新亜飯店だったという。小籠包と共に、その美味しさに「衝撃」を受けたそうだ。私が上海蟹を初めて味わったのは、六本木の中国飯店だったと思う。オスだったかメスだったか覚えていないが、肉より蟹ミソを味わうという「大人の食べ方」を知った。もちろん美味かった。

   めったに食べないものだから、できれば「食レポ」の部分も読みたいのが人情だ。今年が間に合わなければ、昨シーズンまでの経験でもいい。どのあたりが濃厚で、毛ガニやズワイガニに比べてどうなのか、プロの筆致で伝えてほしかった。

   上海蟹の唯一といってもいい問題点は、珍味の宿命として値が張ることだ。旬ほど高価になるのは高級食材の証拠だろう。ネットで有名店のサイトをざっと巡ったところ、姿蒸しは大きさにもよるが1杯3000~5000円というところである。

   散財で一気に冷える懐は、安めの紹興酒で埋め合わせるしかない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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