【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
米投資ファンドのベイン・キャピタルが、旅館や日帰り温泉施設を運営する大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの売却を複数の中国企業に打診していると報じられた。
緊急事態宣言解除で、観光需要が回復しつつあるとは言え、外国人旅行者の来日はなお難しく、インバウンド観光は先が見えない。大江戸温泉をはじめとする日本のレジャー施設が中国の投資家にとってどれほど魅力があるのか、不動産関係者に話を聞いた。
大江戸温泉は中国人に大人気
大江戸温泉と言えば、2003年に開業した「東京お台場 大江戸温泉物語」が有名だが、ホテル・旅館事業の再生も手掛け、グループとして全国で約40施設を運営している。
中国人向けインバウンド不動産事業を展開する神居秒算の趙潔社長は、「実は自分も大江戸温泉物語のヘビーユーザーです」と明かした。ただし、趙社長の行きつけは上海にある日帰り温浴施設の「大江戸温泉物語」だという。
上海の施設は2016年に開業。だが、同施設が「大江戸温泉からライセンスを得ている」と主張したのに対し、日本側は「海外のいかなる企業や団体とも資本提携、業務提携は行っていない」と発表し、「パクリ」「名称の無断使用」と大騒動になった。が、その後、日本側は具体的なアクションを取っておらず、報道はぴたりと止み、上海の施設も何事もなかったように運営を続けている(何か大人の事情があるようだ)。
趙社長は、「上海の自宅から車で10分くらいなので、上海滞在時は週1ペースで通っていました。大変な人気で、駐車場に車を停めるのにも1時間かかるので、私はタクシーで行ってました」「オープン時には色々ありましたが、結果的に中国で大江戸温泉ブランドの認知を高めています」と話した。
コロナ収束後に行きたい国、9割が日本
実際、お台場の大江戸温泉物語は中国人旅行者の定番スポットで、9月の閉館も中国で関心を呼んだ。中国のSNSウェイボ(微博)では、閉館前に施設を訪れたユーザーの投稿が相次いだ。
ただ、中国人にとって「日本の大江戸温泉=お台場」のイメージが強いため、中国企業が大江戸温泉グループを取得するかもしれない、という今回のニュースには、「お台場が閉館した以上、大江戸温泉グループにはもう魅力がない」との反応も多い。
一方、趙さんはプロの視点から、「日本の旅館に関心を持っている中国人投資家は多いですよ」と話す。神居秒算が中国人投資家を対象に9月に実施したアンケートでは、「(コロナ禍収束後)海外旅行ができるようになったらどこに行きたいですか」との質問に、9割近くが日本を選んだ。
「日本は中国から近いので、旅行に行ったことがある人が多く、コロナ禍でリピーター需要が相当蓄積しています。コロナ禍が収束し、海外旅行が解禁されたらコロナ前以上に訪日観光客が増える可能性が高く、来年夏あたりの"解禁"を想定し、いい施設があれば取得したいと考える投資家は増えています」(趙さん)
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