最大震度5強の地震が2021年10月7日夜、首都圏を襲った。東京都では一部地域で停電が発生。JR品川駅では構内が一時真っ暗になった。鉄道各線も、運転見合わせや遅延が相次いだ。
水道、電気、ガスといったライフラインは、文字通りどれも生活に欠かせない。中でも電気は、現代においては暮らしの隅々にまで影響が及ぶ。被災経験を持つ記者が、長期の停電に見舞われて気付いた「当たり前ができない苦痛」を共有したいと思う。
一番困ったのはトイレ
2年前の2019年10月12日、台風19号が伊豆半島に上陸。13日にかけて東日本の太平洋側を進むと、各地で河川の氾濫や街の浸水が発生した。都市部では、高層マンションの配電設備が故障して停電が長期化した。
その約1か月前には台風15号により、千葉県各地が広域で停電に見舞われ、1週間以上復旧が遅れた地域まで出た。夏の暑さが残る時期で、エアコンが使えず入浴にも支障が出て苦しむ住民を、記者は現地を訪れて取材した。
停電は日々の暮らしを直撃する。大規模な災害が起きた直後は、まず命を守る行動が最優先だが、危機を脱した後も電気が失われたままだと、日常生活を取り戻すのは難しい。記者は集合住宅での在宅避難を経験したが、電気なしの生活が全く成り立たない現実に直面した。
まず、断水が起きた。これは複数の自治体がウェブサイトで原理を説明している。例えば札幌市水道局のサイトには、次のような記述がある。
「多くの高層マンションやビルなどで使用されている、「直結加圧方式」と「受水槽方式」は、電力で動くポンプで水を送っているため、停電時には断水してしまう可能性があります」
水がないと、実は一番困ったのはトイレだった。飲料水や食事は備蓄や調達でしのげるが、用便は我慢できない。排水の問題もあり、記者の場合は自宅のトイレが使えなくなった。こうした場合に無理やり使用すると排水管が詰まり、便器が大小便で満杯となって衛生面に問題が生じる恐れがあると、専門家は以前J-CASTトレンドの取材で説明していた。さらに「できるだけトイレに行かないように」と我慢を続け、体調不良を引き起こす要因にもなりえるという。
停電が断水を呼び、トイレが使用不能――全く想定していない「負の連鎖」だった。