キャンプの酒 西村瑞樹さんは「五感で感じるものすべてが肴」と

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同好の士も納得

   私は自然も野外も好きなのだが、テントで朝を迎える本格キャンプの記憶は子ども時代で途切れている。だからキャンプ場で酒を呑んだ経験はない。好きな人に言わせれば「人生、損してますよ」となるのだろう。確かに、西村さんのようにクーラーボックスに腰かけて飲む缶ビールは非日常の味わいだろう。人生、損している。

   「五感で感じるもの全てが酒の肴になる」という文章は、場数を踏まないと出てこない至言だと思った。こうした「キャンプ酒道」みたいな話は、建前に終始したり、小さなウソが混じったりしがちなのだが、西村さんの場合、状況の記述は高台からの景色や、木擦れの音にとどまらない。肉が燻される匂いだけで缶ビール1本、網に並んだサザエや牡蠣を見るだけで熱燗2合と、豊富な体験に基づき描写が具体的である。

   筆者が発するもう一つのメッセージ「戸外で食べれば何でも普段より美味しい気がする」というのも納得がゆく。これはベランダ、公園、運動会、BBQなど、キャンプ以外で何度も経験している。コロナ過で社会問題になった路上飲みも、平時であれば、星空や夜風といった「非日常」が絶品のつまみになるのではないか。

   「キャンプの酒」のように狭いが濃いテーマで書く場合、最後までついてくる読者は同好の士である。少なくともキャンプか酒か、どちらかが好きに違いない。彼らをつかんで離さない秘訣は、「そうそう」「あるある」という実体験の連打に尽きる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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