70歳以上の受刑者が急増
近年、刑務所では高齢者が増えている。社会の高齢化に伴い、受刑者に占める高齢者の比率も高まっているからだ。その実態は、斎藤充功さんの『ルポ 老人受刑者』(中央公論新社、20年5月刊)に詳しい。
同書によると、65歳以上の老人受刑者が全体に占める比率は2007年が2.65%、17年は4.81%。ただし、受刑者の実数が減っている(7万989人→4万7331人)ので、老人受刑者の実数(1884人→2278人)が猛烈に増えているわけではない。そのなかでの顕著な特徴は、70歳以上が急増していることで、この10年間に4.8倍になっている。高齢者の犯罪で多いのは万引きだという。
同書は、「東日本成人矯正医療センター」(東京・昭島市)についても取り上げている。要するに日本最大の医療刑務所だ。医師24人がいて12の科目で総合病院並みの診療をしている。手術も行う。一度に30人が人工透析できる設備もある。収容定員は580人。心身の疾患受刑者約250人が収容されている。最高齢の収容者は86歳だという。一般の刑務所のように、外界と隔てるコンクリートの壁はない。
それにしても、元院長の90歳という年齢は、高齢化が進む受刑者の中でも、かなり突出している。
刑務所では認知症と見られる受刑者も少なくないそうだ。同書では、施設側の苦労も紹介されている。受刑者の処遇上、いちばんの問題は何ですか、という斎藤さんの問いに、刑務所の看守部長は「物忘れ」がひどい受刑者の扱いだと即答している。「高齢受刑者の介護に手を取られ、現場では仕事量が増している」という。