中国が開発中の新型コロナワクチンについて、日本で臨床試験が始まっているというニュースを2021年9月14日、NHKが報じた。米ファイザーやモデルナ、英アストラゼネカのワクチンについては日本でも臨床試験が行われているが、中国で開発が進むワクチンの臨床試験が国内で行われるのは初めてだという。
承認を得て実施
NHKによると、臨床試験が始まったのは、中国の四川大学が開発を進める「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれるタイプのもの。長崎大学が、神戸市にある「医療イノベーション推進センター」とともに、国内での臨床試験に必要な手続きを進めていた。8月中旬、国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構からの承認が得られたという。
第1・第2段階の臨床試験は、8月下旬からすでに始まっていて、240人の健康な人を対象にワクチンなどを投与し、その安全性や効果などを確認することにしているとのこと。
このワクチンは、すでに中国では、最終段階となる第3段階の臨床試験まで進められていて、中国国内では年内の実用化を目指していると報じられた。
NHKの取材に、長崎大学などのグループでは、「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」の技術は、ほかのワクチンでも実用化されていることから、副反応などのリスクが小さいと考えていて、乳幼児などにも接種できるよう、このワクチンをもとにさらに安全性を高めたものを開発したい、と答えている。実際にこのワクチンが日本で使われることになるのか、などはまだわからないようだ。
国をまたいで治験
厚生労働省のウェブサイトによると、国内で使用されているワクチンについては、事前に日本でも臨床試験が行われており、その結果が公表されている。
「日本人の健康成人約250人を対象に、ワクチンを接種する人とプラセボ(生理食塩水)を接種する人に分け、標準(承認された)用量を4週間の間隔で2回接種しました。その後、2回目の接種から28日後の、血清中のスパイクタンパク質に対する特異的抗体及び中和抗体の増加状況を確認しました」(アストラゼネカのワクチン)
「日本人の健康成人160人を対象に、ワクチンを接種する人とプラセボを接種する人に分け、約3週間の間隔で2回接種しました。その後、2回目の接種から1カ月後の、血清中の新型コロナウイルスに対する中和抗体の増加状況を確認しました」(ファイザーのワクチン)
一方で、今回の中国のケースと同じように、日本の医薬品メーカーが開発中のワクチンについて海外で臨床試験を検討しているケースもあるとされる。すでに塩野義製薬が、最終段階の臨床試験を東南アジアなどで実施する方向で検討していることなどが報じられている。国をまたいで治験するというのは、創薬の世界ではよくあることのようだ。
欧米などは警戒
中国の新型コロナワクチンは、「シノファーム」「シノバック」「カンシノ」がWHO(世界保健機関)で承認されているのに、なぜさらに新たなワクチン開発を続けているのか。
その理由や現況については、日本貿易振興機構(ジェトロ)の2021年8月4日付レポート「中国製ワクチンの海外展開を読み解く」が詳しい。
それによると、中国はワクチンを世界的な「公共財」ととらえ、開発したワクチンを国内への供給だけでなく、海外へ積極的に提供する意思があることについても早期から言及。中国外務省は2021年7月12日の記者会見で、「中国は100を超える国と国際機関に対し、5億回分以上のワクチンとその原液を提供した。これは全世界の新型コロナワクチンの総生産量の6分の1にあたる」と説明している。
中国は「一帯一路」のパートナーシップ関係において、ワクチン協力を重要なテーマの1つとして取り組む方針を示しているが、実際にはそれ以上に多数の国に供給を続けている。
コロナ禍が続く状況の中で、今後、中国から海外向けの供給が拡大するとみられ、生産増に力を入れ続けている。中国の大手製薬会社「上海復星医薬集団」は独ビオンテック社の株を持ち、ワクチンの中独合弁事業に着手している。ほかにも、さらなるワクチンの開発や製造に取り組んでいる企業は少なくないようだ。
ジェトロのレポートは、「途上国での中国製ワクチンの普及について、欧米など諸外国は、中国の影響力の高まりと捉え、警戒する向きが強い。この点については、ワクチンを必要とする途上国の個別の事情を踏まえながら、注意深く観察する必要もあるだろう」と結んでいる。