科学分野で顕著な功績を残した研究者に贈られる「ブレークスルー賞」に日本人2人が選ばれたことが話題になっている。受賞者はノーベル賞を受賞するケースが少なくない。10月上旬には、今年のノーベル賞が決まる。果たして日本人が選ばれるだろうか。
ケタはずれの高額賞金
「ブレークスルー賞」は2012年創設。米グーグルの創始者らが出資してつくっただけあって賞金は300万ドル(3億3000万円)。学術賞ではケタ違いの高額だ。「数学」「基礎物理学」「生命科学」の3部門に分かれている。
21年9月9日に発表された今年の受賞者では、数学部門で京都大で望月拓郎教授(49)、基礎物理学部門で東京大の香取秀俊教授(56)が選ばれた。
朝日新聞によると、望月さんは、「半世紀は解けない」と言われた難問「柏原予想」を解決して「この分野に完全な基盤を作った」と評価された。
香取さんは、300億年で1秒しかずれない極めて正確な光格子時計を開発した。従来の原子時計をはるかに超える精度を誇る。
同賞は過去に何人かの日本人が受賞している。13年の山中伸弥さん、16年の梶田隆章さん、17年の大隅良典さんなど、同賞の受賞前後にノーベル賞も受賞している人が目立つ。
数学部門のノーベル賞はないが、基礎物理学部門で受賞した香取さんは将来ノーベル賞の可能性がありそうだ。また、生命科学部門で18年に受賞ずみの森和俊・京都大学大学院教授もノーベル賞の有力候補だ。
コロナワクチンの開発者も
今回、ブレークスルー賞の生命科学部門の一人には、独ビオンテック社のカタリン・カリコ博士が選ばれた。同社は米ファイザー社と新型コロナワクチンを共同開発したことで知られる。実際に開発をリードしたのはビオンテック社だといわれている。
重要な働きをしたのがカリコ博士だ。NHKによると、ハンガリーで生まれ育ったカリコ氏は大学で生化学の博士号を取得。同国の研究機関で働いていた。しかし、研究資金が打ち切られたことから1985年、夫と娘の3人で米国に渡る。
ペンシルベニア大学などで、今回のワクチン開発の中核原理となった「mRNA」の研究をしていたが、苦難の連続。2005年になってようやく、当時の同僚らと革新的な研究成果を発表、さらに08年にも追加発表した。
論文は当時あまり注目されなかったそうだが、ビオンテック社がこの研究の価値に気づいた。カリコ博士は13年に同社に招かれ、19年からは上級副社長も務めている。
NHKによると、米モデルナ社のワクチンも「mRNA」を用いているという。カリコ博士の研究が、コロナ禍で苦しむ世界の多くの人々を救ったことになる。
博士はすでに昨年、米国の医学賞、ローゼンスティール賞を受賞している。ノーベル賞受賞者が多く受賞している賞だ。今回ブレークスルー賞は、ペンシルベニア大学時代の共同研究者も受賞している。