「iPhone 13」が登場する。2021年9月15日に米アップルが発表した。バッテリーの駆動時間が伸び、動画撮影中に焦点を自動で切り替える「シネマティックモード」が加わる。半面、指紋認証で画面ロックを解除できる「Touch ID」機能は復活せず、「USB Type-C」端子(USB-C)は導入されない。いずれもユーザーからの要望が根強くあるにもかかわらずだ。
対照的に、同時発表のタブレットPC「iPad mini」(第6世代)ではTouch IDとUSB-Cが採用された。なぜiPhoneではないのか。スマホ・ケータイジャーナリストの石川温氏に聞いた。
マスク社会でTouch ID欲しかった
「Touch ID」は、2013年発売の「iPhone5S」から17年9月発売の「iPhone 8」まで、iPhoneシリーズの認証システムとして用いられた。17年11月に登場した「iPhoneX」以降は、「iPhone SE」 (第2世代・20年発売)を除いて顔認証システム「Face ID」が採用されている。
また2012年の「iPhone 5」以来、シリーズでは充電・データ転送手段にUSB-Cではなく米アップル開発の「Lightning」が用いられている。
認証を補助する「Apple Watch」がなければ、Face IDはマスク着用時正常に機能しない。そのため、新型コロナウイルス禍の昨今、指で触れれば済むTouch IDの再登場をiPhoneに望む声が出ていた。
また、石川氏によると、「USB-C」は一般的にデータ転送速度がLightningより速く、非アップル製品の電子機器でも広く浸透している。転送速度や他機器との互換性から、iPhoneのUSB-C化を願う人もいたとのことだ。
新しいiPad miniでは、端末上部側面の右側にある「トップボタン」(電源ボタン)に触れることでTouch IDが利用可能。19年発売の前世代機でも画面下部の「ホームボタン」でTouch IDが使えた。ケーブル端子は前世代機のLightningから上述のUSB-Cに移行した。
なお、2018年以降登場の「iPad Pro」シリーズや、2020年発売の「iPad Air」(第4世代)も、USB-Cに対応している。
iPadでUSB-C使えるのはなぜ
石川氏は、iPhoneがLightningの採用を続ける理由の1つとして「安全性を考慮」しているのではないかと推測した。他社スマホやパソコンに浸透しているUSB-Cは、電流・電圧といった仕様がアップルの規定と異なるケーブルも多く、粗悪品も存在する。アップルの端末規格に合わないものを使うと、本体の損傷や火災につながる恐れがある。
他方、iPadシリーズは音楽や動画制作に用いるクリエイターが多く、カメラやハードディスク(データ保存装置)といった周辺機器と接続して使われることもアップルは想定している。クリエイターにとってのデータ転送の速さや、対応機器の多さというメリットを重視し、USB-Cを導入しているのではないかと分析した。
iPhoneはiPadよりもユーザーが多く、より幅広い場面で使われると考えられる。さらに、iPadとは異なり防水にも対応している。それだけに水場で使用され、端子が濡れたままユーザーが充電してしまう可能性がある。濡れたままアップルが規定していないケーブルで充電されたら、事故のリスクは高まる。「だから、iPhoneは充電に関するコントロールがより必要なのだと思います」(石川氏)。
そしてTouch ID。iPhoneの電源ボタンは「サイドボタン」として端末の右側面にあるが、ここに指紋認証センサーを搭載できないのか。
石川氏は、サイズが小さいiPhoneの電源ボタンに性能の高い認証センサーを搭載するのは技術的に難しい可能性を指摘した。
iPhoneとiPadの使い方の違いも、背景にあるかもしれない。石川氏によると、サイズの大きいiPadシリーズは両手で使う人が多い。両手で操作していると、Face IDに使う内側の「インカメラ」をふさいでしまうことがあるという。Touch IDなら、右手でセンサーに触れて認証しやすい。
半面、片手でよく使われるiPhoneのサイドボタンにセンサーを埋め込むと、左手では認証しづらいなど、普段右手で使うユーザー・左手で使うユーザーの間で使用体験に「差」が生まれるという。この差を避けることを意識して採用しなかったことも考えられるとした。