厚生労働省が推進してきた、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」。利用者が陽性登録を行うと、2週間以内に接触の可能性があった他のユーザーに通知してくれる。度重なる不具合が報告されつつも、2021年9月10日現在も運用が続いている。
9月8日には新たなアップデートが行われ、陽性者と接触の可能性があった時の通知の表示方法などが修正された。ただ、20年6月19日の配信開始以来、COCOAが感染拡大防止に大きな効果を上げたという話は聞こえてこない。それでも費用をかけてアプリを運用し続ける意義はあるのだろうか。
効果を上げた証拠ない
J-CASTトレンドは、ウェブサイトやアプリを開発している「ゼロベース」(東京都新宿区)代表取締役・石橋秀仁氏に取材した。「これまでに(COCOAが)効果を上げてきたという証拠はありません。今後についても同様でしょう」と指摘する。
COCOAの問題点は「利用目的が明確になっていない」ことだという。接触通知を受けたユーザーに、感染拡大防止のため自主的な隔離を促すアプリなのか、保健所の積極的疫学調査(感染者の行動歴や接触の調査)を補助するアプリなのか、位置付けが定まっていないと語る。
普及率の低さも課題だ。利用者が少なく、実際に起きる濃厚接触のうち一部しか通知がなされていないと石橋氏は指摘した。
厚労省の発表によると、COCOAのダウンロード数は21年8月31日時点で2987万件。1年以上経過しても、ダウンロード件数は国内人口の4分の1にも達していない。COCOAの登場直前、安倍晋三首相(当時)は20年6月18日の会見で英オックスフォード大学の研究を引用し、「人口の6割近くにアプリが普及し、濃厚接触者を早期の隔離につなげることができれば、ロックダウンを避けることが可能」として利用を呼びかけていた。
厚労省サイトのCOCOAのページでは、陽性登録件数も公開されている。21年7月31日〜8月31日には、1万3222件の登録があった。一方、同省の「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」という資料を見るに、7月31日〜8月31日の新規陽性者数は57万6354人。この期間の登録率は単純計算で約2.3%とみられる。
国民の信頼得られる仕組みが必要
石橋氏によると、普及率の低さの一因は「国民の信頼を得られなかった」こと。20年6月のリリース後にも、通知バグや「Android」(スマートフォン向け基本アプリ)端末で正常に利用できないといった不具合が続き、信頼性は低下した。
もしもCOCOAの目的や位置付けを明確にした上で、十分な開発予算・人員を投入、さらにアプリの品質を担保し、国民の信頼を得るための広報活動を適切に実行できていれば、利用率は高くなり得たという。
今後COCOAが高い効果を発揮するためには、アプリの目的と目標などを定めつつ、国民の信頼を得るために「目標達成状況を管理・監督する組織を作ること」「状況を定期的に国民に報告する仕組みを構築すること」などが必要だという。ただ、こうした策を持ってしてもなお「感染抑制の効果を得られるかどうか疑問」とのこと。
「もしこういう体制を構築せず、無責任にズルズルとアプリの提供を続けるようなら、むしろ即刻(COCOAの)廃止を訴えたいと思います」