【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
新型コロナウイルスのワクチンの接種後に感染する「ブレイクスルー感染」が増加し、ワクチンの有効性や効果の持続期間に関心が高まっている。
藤田医科大学(愛知県)が、ファイザー社のワクチンの接種3か月後には、抗体の量が2回目接種の4分の1減少すると発表するなど、世界でさまざまな研究が進んでいる。新興国を中心に接種が広がる中国製ワクチンについても、「デルタ株への有効性が59%」など最新のデータが公表された。
接種1回で済むワクチンも承認
世界保健機関(WHO)が緊急使用を承認している中国製ワクチンは、中国医薬集団(シノファーム)と科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)の2社。いずれも、ウイルスを加工し毒性をなくした不活化ワクチンだ。
中国内では他に、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)、安徽智飛竜科馬生物製薬(智飛生物)のワクチンが承認(緊急承認含む)され、流通する。カンシノはウイルスベータワクチンで1回の接種で済むのが最大の特徴。智飛生物は組み換えタンパクワクチンで、3回の接種を行う。
WHOはシノファームのワクチンの有効性を78%と推定、シノバックはそれよりかなり低く、50%台にとどまるとされる。1回接種のカンシノは最終臨床試験の中間結果で、有効性65.28%だった(重症化を防ぐ効果は90.07%)。
中国製ワクチンは東南アジア、南米、アフリカなど新興国に広く輸出されているが、欧米製に比べると信頼度はいまいちだ。チリでは2回接種後に感染が相次いだため、中国製ワクチンを接種した国民に欧米製ワクチンの追加接種を始めた。
フィリピンではドゥテルテ大統領が中国製ワクチンを接種したが、国民の間ではファイザー製の人気が高く、ファイザーの接種会場に長蛇の列ができているという。
3回接種タイプはデルタ株への有効性81.76%
最近になって、欧米製ワクチンでも接種後数か月経つと防御効果が薄れるとの研究結果が出始めた。感染力がより強いデルタ株への有効性は低下するとも見られている。
広州市疾病予防控制中心(CDC)や感染症対策の権威・鍾南山氏らの研究チームは5~6月に広州市でデルタ株に感染した患者のデータから、中国製不活化ワクチンのデルタ株への感染防止効果が59%、中等症の発症を防ぐ効果が70.2%との研究結果を発表した。年齢では40~59歳、男女別では女性への効果が高かったことや、1回目の接種では十分な効果が出ず、2回目の接種の2週間後に効果が生じるとの結果も示された。
1回目の接種から4~8週間後に2回目、1回目から半年以内に3回目の接種を行う智飛生物は8月下旬、18歳以上の2万9000人に実施した臨床試験の結果を公表。デルタ変異株への有効性が77.54%、アルファ変異株への感染予防効果が92.93%、全体的な有効性は81.76%、重症化、死亡を防ぐ効果は100%だった。
「追加接種で抗体10倍以上に増加」
1月にワクチン接種が始まった中国では、接種回数が20億回を超えた。次の課題は、2回目の接種から半年を迎える人々への追加接種だ。
シノバックは中国メディアの取材に、ガンマ変異株とデルタ変異株に効果のあるワクチン開発の臨床前研究が大詰めを迎えていると明かした。同時に、3回目の接種で抗体が大幅に上昇するとの研究結果も示した。
鍾南山氏は8月、接種半年後にはどのワクチンも効果が低下するとし、「追加接種によって抗体は10倍以上に増える。高齢者への効果は特に大きく、抗体は30倍以上になる」とブースター接種に前向きな姿勢を見せた。中国当局の責任者も先月下旬、感染リスクが高い職業に就いている人や高齢者のブースター接種を推奨する発言をしており、この秋は「3回目接種」が本格化しそうだ。
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