スケボーの詩 中沢新一さんは五輪新種目に束の間の美を見た

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ゴン攻めの評論

   東京五輪のスケボーでは日本勢が大いに活躍し、中沢さんがとり上げたストリート部門の男子で堀米雄斗(22)、女子では西矢椛(13)がそれぞれ金メダル。また、おわん型のコースで競うパーク部門でも、女子で四十住さくら(19)が金、開心那(12)が銀をとった。とりわけ十代の輝きは、新たなミトロジー(神話)の誕生を予感させた。

   ボールやバトンが「ただのモノ」になって宙を舞うジャグリング芸と、本来の意味を失った階段や手すりの上で競技者が宙に浮くスケボー。人とモノの位置関係こそ反対だが、拍手喝采を含む全空間を演者が独占的に支配するところは同じである。

   そしてスケボーと詩作は、モノや言葉を日常的、常識的な使い方から切り離したうえで自在に操る点で共通する、という「発見」もなかなか新鮮だ。

   「美」や芸術性を重んじるスポーツに求められるのはクラシック音楽の連続性だが、スケボーは荒々しいジャンプで旋律をあえて断ち切り、非連続のカットを積み上げていく。当然、解説者にも新たな資質が求められる、というまとめも納得できる。

   ストリート文化から生まれたスポーツを、思想家あるいは哲学者が論じるとこうなるという例。国語の試験問題にも使えそうな、巧みなアナロジー、明快な展開がいい。

   周知のように、中沢さんのご専門は宗教である。現世のトピックを題材に、なかなかゴン攻めした評論だと思う。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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