「献納」「献上」「御買上げ」で御物に
国の文化審議会は2021年7月16日、「動植綵絵」のほか、狩野永徳の「唐獅子図屏風(びょうぶ)」や鎌倉時代の「蒙古襲来絵詞(えことば)」など5点を国宝に指定するよう文部科学相に答申した。いずれも、皇室に受け継がれていた作品だ。現在は皇居内にある宮内庁三の丸尚蔵館の収蔵されている。
文化財の世界では、重要文化財、国宝という順にランクが上がるが、別枠に皇室ゆかりの「御物」(ぎょぶつ)と呼ばれる作品群がある。
『博物館と文化財の危機』(人文書院)によると、明治になって文化財や美術や歴史といった固有の「伝統文化」が「一等国」には不可欠、との認識が、欧米列強を視察する中で政治家や学者の中に広まった。
西欧のルーブルやエルミタージュ美術館は、王室の私的なコレクションをベースにしている。ところが日本では1872年の宝物調査で、正倉院の献納宝物以外にはまとまった皇室の至宝がないことが明らかになり、明治政府は収集を急いだ。具体的には「献納」や「御買上げ」という形で収集された。「動植綵絵」は若冲と縁が深かった京都・相国寺から明治期に献納された作品だ。
これらの美術工芸品は「御物」、すなわち皇室の私有財産となっていた。しかし、その多くは平成になってから国に寄贈され、国有財産に様変わり。宮内庁管理となって三の丸尚蔵館に収蔵されてきた。
「御物」は上記の経緯から、長年、国宝や文化財指定の対象外とされてきた。しかし、2018年、宮内庁の有識者懇談会が「貴重な作品の価値を分かりやすく示すべきだ」と提言したことが、今回の国宝推挙につながった。
国有財産に移管された「御物」は数千点あるという。今後さらに国宝になるケースが出てくることになりそうだ。