独自のスーパーテクニック
日本には1200件近い国宝があるが、そのうち絵画は160件ほど。安土桃山時代以降の近世作品は30件ほどしかない。「風神雷神図屏風」(俵屋宗達)、「洛中洛外図屏風」(狩野永徳)、「松林図屏風」(長谷川等伯)など、いずれも日本絵画史を代表するスーパースターたちの作品だ。そこに、つい20年ほど前までは「こんな絵かきが日本にいた」といわれる程度の知名度しかなかった若冲がランクインすることになった。北斎や広重などの浮世絵はまだ国宝になっていない。
若冲作品の特色については近年、科学の目でも分析されている。一つは画料。『文化財分析』(共立出版)によると、「動植綵絵」については当時、日本に輸入され始めた「プルシャンブル―」という青色の材料を早々と使っていることがわかった。若冲が新しい画材について関心を持ち、研究熱心で、意欲的に入手していたことがうかがえる。
もう一つは、並外れて丹念な描写力。「動植綵絵」では、鶏や孔雀、鳳凰など鳥の羽根を美しく透けて見える金色で描いているが、これまでは下層に金粉を溶いたものを塗り、その上に白色の彩色をしていると理解されていた。ところが分析によると、金を一切使わずに金色と認識させる特殊技法を用いていたことがわかった。若冲の超マニアックな作品は、独自のスーパーテクニックによってはじめて可能になっていた。