政治家の世襲 牧太郎さんは問う「DAIGOは支持されるか」

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   サンデー毎日(8月1日号)の「牧太郎の青い空 白い雲」で、牧さんが毎日新聞の先輩にあたる内藤武宣さん(83)のことを書いている。76歳の牧さんは社会部や政治部で活躍し、サンデー毎日の編集長を務めた人。今作で825回を数える「青い空...」は同誌の名物連載である。話は半世紀前の、上からの指示で始まる。

   牧さんが警視庁回りだったころだ。上司から「ナイトウブセンが退社するらしい。理由を調べろ!」と命じられた。当時政治部にいた内藤さんは、組閣人事などをスクープする腕利きの記者。空手が得意で、後に『少年少女の空手道』などの著書も出した。名前の読みは「たけのぶ」だが、社内では「空手のブセン」で通っていたらしい。

「退社の理由は簡単だった。内藤先輩は、第3次佐藤内閣の官房長官に47歳の若さで就任した竹下登さんの次女と結婚。退社して、1972年12月の衆院選で、故郷・福岡1区から立候補する予定だった」

   どの新聞社も、政治部と社会部はそれほど仲が良くない。権力の懐に飛び込んで情報をつかむ政治部と、権力の不正をえぐる社会部...後者も警察や検察との「癒着」をしばしば指摘されるのでそれほど単純ではないが。内藤さんの場合、部外にも親友が多く全社的な人気者だった。そんな政治記者が取材先の大物に気に入られ、ついには「身内」に転じて政治家を目指す...往時の新聞社にありがちな話である。

  • 「地盤を継いだ私に、清き一票を」
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オヤジの復讐戦?

   退社しての背水の陣だったが、内藤さんはあえなく落選、竹下の秘書となる。

「実は最近、"競馬もの"を書くようになって、JRAの幹部になっていた内藤先輩のご長男にお会いした。この時、初めて、人気タレントのDAIGOが彼の弟、つまり『内藤武宣の次男』、つまり『竹下登の孫』であることを知った」

   DAIGOはデビュー当時から「竹下総理の孫」をウリ...というよりネタにしており、メディア人である牧さんが知らなかったとは意外である。当方、本作を拝読して〈DAIGOの父ちゃん、新聞記者だったのか〉と、逆の流れで驚いた次第だ。

   衆院で竹下の地盤(島根2区)を継いだのは、ご存じのように異母弟の竹下亘さん(74)である。こちらはNHK記者から兄の秘書に転じ、政界に入った。その亘さんは今秋の衆院選には出ず、政界を引退する。

「"竹下王国"を誰が引き継ぐのか? 亘さんの2人の子供さんたちは立候補する気はないらしい。となるとDAIGOしかいない? ひょっとすると...50年後の『オヤジの復讐戦』なんってことも」

   牧さんは、塩崎恭久・元官房長官(愛媛1区)や山口泰明・自民選対委員長(埼玉10区)らベテラン議員の引退にも触れて、こうまとめる。

「後継はどうやら『世襲』らしい。公募という形を取るが、結局『勝てる候補はセガレ』ということに落ち着く。日本の政治が三流化している原因は世襲議員だらけ! 『DAIGO』は果たして支持されるだろうか?」

選挙区は領地なのか

   「支持されるだろうか」と言われたって、DAIGOは困惑するだろう。おじいちゃんが総理大臣だったというだけで、そもそも政治家向きのキャラとは思えない。

   さて内藤さんである。34歳での退社から選挙まで半年もなかった。中選挙区時代の旧福岡1区は定数5。そこに10人が立候補する乱戦だった。無所属で出馬した内藤さんは大差の最下位で、惜しくもない結果に。ちなみに、この衆院選で同じ選挙区から無所属として初当選したのが、自民党幹事長などを歴任した山崎拓さんである。

   内藤さんについては「竹下姓なら勝てた」という分析もあったようだが、4年後の衆院選には出ていない。自らは裏方として、義父を首相に押し上げることに尽くそうと早い段階で腹を括ったとみられる。

   牧さんは内藤さんの話から竹下後継、さらには二世三世ばかりの政界の現状に展開し、「日本の政治が三流化している原因は世襲議員だらけ!」の結論に達する。要するに世襲批判のコラムである。引き合いに出されたDAIGOは流れ弾に当たったようなものか。

   もちろん自民党を中心に、政治家を「家業」とするような議員や「ファミリー」が増えたことは政治劣化の一因、というより主因かもしれない。そのまた背景には、選挙区を領地か王国のようにしてしまった小選挙区制がある。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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