「競り」使ってボール収めていた
――なぜ林選手を右サイドハーフからFWにコンバートされたのでしょうか。
坂本:練習を見ていた時にゴールに向かう姿勢が強かったからです。大地のサッカー人生はガンバ大阪ユースには上がれず、履正社高校サッカー部に入り、高校から次の道も大体大が第一志望ではなかった。そういった挫折から生まれる負けん気の強さを感じましたし、闘争心ある性格も考えると、FWが向いていると思いました。
――林選手は身長178センチとされていますが、もう少し小さく見えます。そして、当時はスピードがあったわけでもない。そういった選手をFWにコンバートされる指導者は珍しく感じます。
坂本:私は大体大での44年間の指導で、後半の20年以上、夏島隆氏と「競り」という接触技術を選手に教えてきました。大地は、この「競り」の練習に興味を持って、真剣に取り組んでいました。そして、習得もしていった。本来持っているFWとしての性格に加え、「競り」の技術が加われば、ストライカーに変貌すると思いました。
――そんな林選手の、東京五輪グループリーグ初戦となった南アフリカ戦をどのように評価されますか。
坂本:日本代表の二列目の選手を見れば分かるように、大地を中心としているわけではありません。むしろ、大地が彼らに生かされ、かつ生かすかです。「競り」を使って、自分のエリアに来たボールをしっかりと収めていました。かなり頑張って相手と競っているように見えたのではないでしょうか。その動きをしながら、相手ボールになったら、ファーストディフェンダーとしてプレッシャーをかけ続けていました。
――南ア戦での林選手の象徴的なシーンが32分。相手を背負いながらも、左腕を相手の腰、右腕を相手の肩にかけ、クルっと反転し、シュートまで持っていった。相手センターバック(CB)と勝負するプレーで、相手のCBを自由にさせない。あの瞬間の「競り」を解説して頂けますか。
坂本:腕が目についたかもしれませんが、あのシーンで大事なのは足の運びです。足をどの位置に置いて、ターンしているか。背中で相手を背負っている時に、後ろ足のどの位置に置くかがポイントです。
――足を正中線(ヒトや動物の前面または背面の中央を縦にまっすぐ通る線)に入れるということでしょうか。
坂本:相手の動きを止める時に、正中線に足を入れます。その後で、ステップをして、足を回転しやすい位置に持っていきます。この回転する時に、腕が連動していくのです。これが私の理想で、ご指摘された腕は一連の流れの一つです。指導をした学生たちも、正しく理解できていないと、強引に腕の力で何とかしようとする(苦笑)。それはファウルになりやすいプレーです。腕の使い方は、相手の力を利用したり、あとは背中のあたりをちょっと触るとか接触する程度です。
――確かに、動画でシーンを振り返ると、林選手は左足を正中線の位置に置いています。そして、相手を止めて左足でトラップし、右足でステップしながら、腕を連動させてターンしています。
坂本:体幹は強いに越したことはありません。ただ、体幹が強いから接触に強いという解説をよく耳にしますが、「競り」は力ではなく、テクニックというのを日本サッカー界で共有して欲しいですね。