英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンについて、厚生労働省が、40歳以上を予防接種法上の「臨時接種」の対象として位置付ける方向で検討している――。
共同通信が2021年7月29日未明、このニュースを流したところ、ヤフーではたちどころに4000以上のコメントが付いた。大半は「氷河期世代をバカにするのか」という反発の声だった。
血栓が心配
日本がすでに入手済みのワクチンは3種。米ファイザー(独ビオンテックと共同開発)、米モデルナ、そしてアストラゼネカ製だ。すでにファイザーとモデルナによる接種は続いているが、アストラゼネカ製は未使用。それを「40歳以上」に対しては接種を認めようとしているというのが共同通信の記事の骨子だ。
3社のワクチンにはかなりの違いがある。NHKのまとめによると、一つは予防効果。ファイザーは95%、モデルナは94%とされるが、アストラゼネカは70%にとどまる。
特に顕著なのが副反応。アストラゼネカについては、「ごくまれに血栓ができるケースが確認され、死亡例も報告。原因は特定されていないもののワクチンとの関連性が指摘される」という。
福井新聞は7月22日、「新型コロナウイルスのワクチン接種 ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ...対象年齢、副反応など違いは?」という記事を掲載している。アストラゼネカ製は、「当初は血栓症などの懸念から使用を見送っていたが、海外で多くの接種実績があり、効果も確認されていることから厚労省は公費接種の対象とする方向で調整に入った」「血栓症は、若い世代で比較的多く報告されているため、60歳以上への接種を認める方針」と説明している。
この記事では「60歳以上」だった対象者が、共同通信の報道では「40歳以上に」になっている。
働き盛りのロスジェネ世代
驚いたのは該当する世代の人たちだ。ヤフーのコメント欄には怒りの声があふれている。
「43歳です。・・・就職活動期は大卒内定率が70%という超氷河期中。年寄りにはファイザーを使い、外に出て働く私達世代には効果が薄く副反応が心配なアストラをあてがうのか? もうこの国に税金払うの嫌だ」
「40代ですが、扱いがホント酷すぎる。働き世代+子育て世代でもあるので重症化しちゃまずい世代なんだけどね。氷河期世代って損だとつくづく感じる」
「氷河期世代」とはどういう世代なのか。21年5月14日のマイナビニュースに解説が出ている(著者は武田麻希さん)。
それによると、バブル経済が崩壊した後に就職活動を行って、大きく影響を受けた人たちのこと。ロストジェネレーション世代やロスジェネ世代とも言われる。1970年~82年頃に生まれた就職氷河期を経験した世代。21年時点での年齢は38歳~51歳程度で、働き盛りの世代だ。非正規雇用者が多いことから結婚や出産を諦めた人もおり、出生率低下の一因とも言われているという。
これまでさんざんな目に遭ってきた世代が、今度のコロナワクチンでまた割を食うということで、怒りの声が収まらない。
デルタ株への有効性にも差
政府がアストラゼネカ製の使用を検討しているということについては、「ファイザーとモデルナの追加調達に目処が立っていないんだろう」と見る人が少なくない。「責められるのが嫌で急にこんな提案を出してきた。安心安全が聞いて呆れる」というわけだ。
「40歳以上の分別がついた大人の誰に、わざわざ性能の低いワクチンを打ちたいと思う人間が居るのだろうか? 厚労省もいい加減国民を舐めるのは辞めてもらいたい」という声もあった。
気になるのは猛威を振るうデルタ株に対する有効性だ。「フォーブス」が26日に報じたところによると、イングランド公衆衛生庁(PHE)は7月21日、約1万9000人を対象にした調査の結果を公表。2回の接種を完了した後のワクチンの発症予防効果は、ファイザー製がデルタ株に対して88%。アストラゼネカ製は67%だった。
各メディアの報道によると、日本では今回の第5波で40~50歳の人たちに重症者が増えているのだという。ところが64歳以下のワクチン2回接種率は28日現在、まだ3.1%にとどまっている。このためアストラゼネカ製も利用して、接種率を上げたいというのが政府側の思惑のようだ。30日の厚労省のワクチン分科会で専門家の意見を聞くことになるという。