マチズモを削れ 武田砂鉄さんは慎太郎氏にイライラを募らせて

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石原家のDNA

   実は武田さん、集英社から『マチズモを削り取れ』という新刊を出したばかり。本作でも「さて、露骨に宣伝を挟む」と前置きしつつ触れている。

   スペイン語の「macho」から派生したマチズモ(machismo)は「男らしさの誇示」「男性優位主義」「マッチョな生きざま」などを指す。武田さんは「この社会で男性が優位でいられる構図や、それを守り、強制するための言動の総称」と定義し直し、日常におけるマチズモを批判的に追いかけている。例えば雑踏で、一人歩きの女性に狙いを定めて体当たりを繰り返す「ぶつかり男」などの話である。

   日本におけるマチズモのイコンは石原氏であろう。作品世界だけでなく、作家として、また政治家としての氏の言動の多くは男目線「だけ」で組み立てられており、しばしば物議をかもしてきた。フェミニストの「天敵」といえる。

   私はかつて、石原慎太郎氏を新聞コラムで採り上げるにあたり、自伝的な著作を何冊か拝読した。気になったのは、氏が多用する「石原家のDNA」という表現である。周知のように、4人のご子息は父親に似てそろって長身で、それぞれの道で活躍されている。だからあけすけにDNAを持ち出されると、「男系男子の正統性」を誇示されているかのようで、思わず引いてしまうのだ(※個人の感想です)。

   もう30年以上前の話だが、取材で田園調布のお宅に何度かお邪魔したことがある。慎太郎さんはまだ50代半ば。プライベート、とりわけ一対一ではコワモテでもなく、人懐こくて話好きの大臣であった。

   では私が女性記者だったらどうだったのか、これは確かめようもない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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