医療現場とのズレ
こうした思いは、コロナ禍で医療関係を取材してきた担当記者にもあったようだ。朝日新聞の荻原千明記者は6月4日に書いている。
「コロナ禍が収まらないこの1年、東京都内の医療機関や保健所を取材してきた。コロナ専用病棟の看護師や救急の医師に現場の切迫ぶりを聞き『この状況で東京五輪に協力できますか』と尋ねた」
「答えは決まって『(五輪に)人を出すなんて考えられない』。私自身、現実離れした質問だと思いながら水を向けてきた。コロナ対応の現場と大会準備の動きには、パラレルワールド(並行世界)のような隔絶を感じてきた」
医療現場と五輪とのズレ――その調整の産物が「無観客」だった。今や「五輪はテレビで見ましょう」と呼びかけられている。
東京の新規コロナ感染者はこのところ激増し、8月上旬には過去最高の1日3000人近くになるという専門家の予測も出ている。都民にとって五輪は、会場で選手と感動を分かち合うものではなく、画面を通して見るだけの「遠くの出来事」になっている。五輪スポンサー企業の中でもTVの五輪広告を自粛する動きが出ている。選手村でコロナ感染というニュースが、皮肉にもコロナと五輪のつながりを再確認させる。