後ろが見にくい車 下野康史さんは「支援システムの過信は禁物」と

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「背中の目」が頼り

   下野さんは自動車専門誌の編集記者を経て、1988年にフリーになった自動車ライター。持ち前のわかりやすい文章の端々に、ベテランの技や味を感じさせる。

   本作のテーマは車の後方視界。ミラーや「上体回し」だけで後ろを確認していた時代は、リアウィンドーが大きく、視界が開けた車ほど運転しやすい。つまり安全面で理想のデザインだった。車体を低く、リアウィンドーを寝かせて格好いいフォルムにするほど、空気抵抗は減っても後方視界が犠牲になる。

   昨今はバックカメラやセンサーなどの運転支援システムが充実し、デザインの自由度は高まった。背中に目がついたようなものである。

   実は私(冨永)が趣味で転がしている小さなスポーツカーは、「スーパー」でもないのに後方視界は無いも同じ、駐車などの後退時はバックカメラが頼りとなる。

   「背中の目」に慣れすぎると、逆に「目」がない前方の距離感に自信がなくなる。下野さん言うところの「ナマ視界」なのだが、たとえば信号待ちで前の車とどれほどの距離があるのかよくわからず、長めに1mほど開けて停めるのが習いとなった。

   下野さんは運転支援システムの「過信は禁物」と言うが、私としては「本物の目を鈍(なま)らせる」というのが実感に近い。これまでは意識しなかったが、このコラムに添える写真を確認したところ、後方カメラの映像には〈車両周辺の安全を直接確認してください〉とある。便利な飛び道具も、あくまで補助なのだと自戒したい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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