「蹴られる東大」
数学の超難問といわれる「ABC予想」を証明した京都大学数理解析研究所の望月新一教授は米国育ち。プリンストン大学に16歳で入学、19歳で卒業している。
今年の新書大賞を受賞したベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社)の著者、斎藤幸平・大阪市立大学大学院経済学研究科准教授は34歳。日本の高校から東京大学理IIにも合格したが、米国の大学を選び、さらにベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程で学んでいる。10代から海外で学んだ研究者が目立つようになっている。
世界の教育事情に詳しい苅谷剛彦・オックスフォード大学教授と、吉見俊哉・東京大学大学院情報学環教授の対談『大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起』(集英社新書)は、立ち遅れが指摘される日本の大学の現実を正直に伝える。
「過去30年間、日本の大学は、英米のトップユニバーシティーとの差を縮めようとさまざまな教育改革をしてきましたが、その差は縮まるどころかむしろ開いたのではないかということです」と吉見氏。「まったく同感です」と苅谷氏。
同書によると、最近、東大を「滑り止め」にする受験生が少しずつ増えている。「第一志望」はハーバードやプリンストン、イエール、オックスフォードなど英米のトップ大学。「東大新聞」は彼らにインタビューした「蹴られる東大」というシリーズを連載していたそうだ。そこでは、「東大受験はアメリカの大学受験を許可してもらうよう親を説得するための条件だった」「アメリカの大学では、全落ちの可能性もあったため、浪人を避ける意味合いもあって、東大を滑り止めとして受けた」などという発言も掲載されていたという。