手荒い気分転換
くどうさんは盛岡市在住。このほど『氷柱(つらら)の声』が芥川賞候補となったことで、改めて注目された。短歌や俳句は工藤玲音の本名で手がける。
ananの特集の副題は「心地よく、ハッピーなココロの整え方」。コロナ禍でストレスがたまり、心がささくれ立つ日々に健やかな暮らし方を提案している。
「最低の時は雨に濡れろ」というメッセージは、筆者の言葉を借りれば「深いプールに潜り底を触るように、人生のどん底に指先で触れる。そうしてからでないと、水面に浮かび上がることができないこともある」という理屈である。「可哀そうな自分をココアで温めるよりも、可哀そうな自分の可哀そうな手触りを味わうのが好きなのだ」と。
毒(ずぶ濡れ)をもって毒(悲観や苦悩)を制す。少し手荒い気分転換である。精神的デトックスの、ひとつの手法には違いないだろう。
「飛沫あふれる情熱的な日々」といった表現には、短詩から文芸に入った人らしく、ことば本来の瞬発力に任せるような潔さを感じる。
少女時代はいろいろ言われたそうだが、一度聞いたら忘れられない名はプロの書き手として強みである。7月14日、芥川賞の選考会が待ち遠しい。
冨永 格