評論家・ジャーナリストの立花隆さんは画期的な著作『田中金脈研究』で有名だった。政治とカネ、最高権力者の秘部に深く切り込んだ同書は、現代ジャーナリズムの金字塔とされる。何がそんなにすごかったのか。
「錬金術」を暴く
文藝春秋の1974年11月号で立花さんが「田中角栄研究―その金脈と人脈」を発表したとき、田中氏は総理大臣だった。徒手空拳で首相まで上り詰めた戦後日本を代表する風雲児として人気があった。豊臣秀吉になぞらえて「今太閤」ともてはやされたりもしていた。
立花さんが鋭く指摘したのは、田中氏の「錬金術」だ。田中氏は当時「日本列島改造論」を推進していたが、立花さんは、関連企業やぺーパーカンパニーを使った「土地ころがし」の実態を暴いた。角栄神話がぐらつき、その後のロッキード事件が追い打ちをかけた。田中氏はあっという間に得意の絶頂から転げ落ちることになる。
立花さんは書いている。
「いまだに根強く残っている田中伝説の、苦学力行、刻苦勉励による叩き上げの成功者というイメージが田中にふさわしいのは、二十四歳までで、それ以後田中がやってきたことは、正業とはいいがたい」
立花さんは『研究』で元首相には4つの側面があると指摘した。政治家、実業家、資産家、虚業家だ。この4つは複雑に絡み合うが、『研究』では主に「虚業家」の部分を白日にさらし衝撃を与えた。