「五輪......。ロンドン五輪からはサッカーを見ていますが、世代別の日本代表に選ばれたこともなかったので、目標にもしていなかったです」
そう語る林大地選手(サガン鳥栖)だが、今夏の東京五輪メンバーの有力候補だ。田中駿汰選手(北海道コンサドーレ札幌)とチームメートだった大阪体育大学(大体大)での転機、サガン鳥栖や国際大会でのプレー、そして五輪代表メンバー発表直前の率直な心境を語ってもらった。(インタビュアー・石井紘人 @ targma_fbrj)
U-24日本代表「練習から興奮」
――大体大のトレーニングは、坂本康博総監督(現:名誉監督)が考案した特殊な内容ですよね。
林:僕は大学で結果を残さなければいけない状態でしたし、やっていて楽しかった。(理論が分からずに)ブツブツ文句を言いながらやっている同級生もいましたし、理解をするのに頭も使いました。でも、成功体験を少しずつ重ねて、凄く楽しくなっていきました。
「競り」を学べたことは大きいです。腕2本と足2本の使い方、体の向き、ステップを連動させながら、体の小さい日本人が大きい強豪国の選手相手にどのようにコンタクトするか。当たるタイミングや、(ファウルにならずに)相手が一歩遅れるという体の部位にうまく接触させることで、優位に立てるのです。
――持ち前のスピードにギアを入れるステップ、さらにペナルティーエリア内で屈強なセンターバックと勝負を出来る瞬間の技術を、大学で身に着けたのですね。
林:ただ、2019年から強化指定選手としてサガン鳥栖でプレーをするようなってからは、大学時代にはボールを収められていたのに競り負けたり、インターセプトされたりするシーンがあったんです。自信を持っていたプレーだけに、鼻をへし折られました。
競りやステップ、腕や足の連動のさせ方を再確認しないといけないと思いました。大体大時代につけていたノートを読み返し映像を見て、理解を深め、研ぎ澄ませていきました。
――その結果がプロ1年目の2020年9月から現れます。リーグ戦9得点でチーム内得点王。そして、堂安律選手(ビーレフェルト)選手のけがにより21年3月、U-24日本代表に召集されます。チームの雰囲気はいかがでしたか。
林:最初はちょっと緊張しましたけど、駿汰(田中駿汰選手)や、ユニバーシアード代表で一緒にプレーしていた選手もいたので、コミュニケーションはとれていました。
U-24アルゼンチン代表との第2戦は、ユニバーシアード代表の時と同じ感覚でプレー出来ていました。周りにうまい選手が多くて、パスがどんどん出てくる。練習から興奮しましたし、試合中は充実していました。第1戦はベンチで見ていたのですが、ボールのない所での南米特有の(ずる賢い)プレーがあって、それにどう対応するか考えていましたね。
難しい体勢でも貪欲に前を向いて
――ただ、6月3日に行われた日本代表とU-24の親善試合では、林選手の得意な動きに対して、なかなか縦パスが入らないように見えました。振り返っていただけますか。
林:僕が(ピッチに)出た時は、0-3で負けていました。東京五輪のグループリーグでこういう展開があれば、絶対に得失点差での1点が大事になってくる。なので、何とかして点をとろうと試合に入りました。自分の所にボールが来たら、すぐにパスを出すという選択をするのではなくて、仕掛けていこうとも思っていました。
――実際に「らしい」ターンからのシュートがありましたね。ですが、先日の3試合(vs日本代表、vsU-24ガーナ、vsジャマイカ)では、日本代表戦に途中出場と、出場時間がFWでは一番短かった。6月22日に東京五輪日本代表が発表です。焦りはありませんか。
林:試合に出場する選手を選ぶのは監督やコーチですから、その選択に不満は一切ありません。さらにいえば、試合に1秒も出ていないわけではないです。時間が少なかったとしても、そこで自分の特徴をアピールするのが代表活動だと思っています。
――では、東京五輪代表に選ばれたら、どのようなプレーを見て欲しいですか。また、どんな感情が湧き上がると思いますか。
林:サガン鳥栖でもそうですが、チームのために走る姿と、難しい体勢でも貪欲に前を向いてゴールを狙いにいく姿ですね。もちろん、FWなのでゴールにはこだわります。
初めてU-24日本代表に選ばれて試合に出た時、自分でもよく分からない、高ぶるような感情がブワっと出てきました。僕は今までアンダーカテゴリーのFIFA大会に出場したことがないので、東京五輪に選出された時の気持ちはイメージできないのが本音です。ピッチに立ったその時になって初めて、何か感情が湧き出てくると思います。
「もちろん、蹴りますよ」
取材の最後、「東京五輪、後半アディショナルタイム。決めればグループリーグ突破、外せば敗退というPKを日本に与えられたとして、林選手は蹴りますか」とたずねた。
「もちろん、蹴りますよ」
間髪入れずに笑顔で、力強く、こう答えてくれた。その表情に、坂本総監督の孫弟子である本田圭佑選手を重ねた。
動じないメンタルだ。「五輪期間中も特に普段と何も変えたりしません。だから、変わらずにSNSはみますよ」と教えてくれた。選出された時には、林選手に応援メッセージを送ってみてはいかがだろうか。
林大地(はやし・だいち)
1997年5月23日生まれ。4歳からサッカーをはじめ、千里ひじりサッカークラブからガンバ大阪ジュニアユース。そして、履正社高等学校サッカー部に。高校2年生で全国高校サッカー選手権に出場、3年生ではインターハイベスト8と活躍した。
卒業後、大阪体育大学学友会サッカー部に入部し、屈強なセンターバックに負けない競りやシュートテクニックを身につける。
大学3年次には得点王として関西学生リーグ1部優勝に貢献すると、ユニバーシアード日本代表に選出され、優勝。2019年8月からサガン鳥栖の特別指定選手として、大学生ながらJ1リーグでプレーし、卒業と同時にサガン鳥栖に入った。
前線で泥臭く動き回ってゴールに向かう姿勢と、得点後の豪快な雄叫びでサポーターの心をつかんだ選手と、サッカーダイジェスト誌に評される。
「目標とする選手はいないが、映像を見て勉強する選手はルイス・スアレス(アトレティコ・マドリード)、ロナウド(元ブラジル代表ワールドカップ得点王)。大体大時代で染みついた相手競技者との体のぶつけ方、シュート打つ時のフォーム、ステップを見ている」とのこと。