【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
少子高齢化が進む中国で、第3子容認の方針が発表されたが、北京のIT企業に勤める26歳の女性は、「友達や同僚の話を聞けば聞くほど、子どもは1人も欲しくないと感じる」と話す。一人っ子政策が長く続いてきた同国では、1人の子どもの教育に莫大なお金とエネルギーを投じるのが常識になっている。
過酷な競争を回避するため、日本で教育を受けさせようと考えるインテリ中国人も少なくない。だが、それはそれで綿密なプランニングが必要なようだ。
「保険として日本の大学にも行けるように」
「小学校は日本、中学は中国、高校からは米国。オーストラリアやカナダでもいい」
来日9年になる中国人女性、何暁静さん(30代)は、自身の子育てプランをこう描いている。彼女自身は中国の大学を卒業し、日本の大学院に進学した。
超学歴社会の中国では、幼稚園のころから複数の習い事をさせるのが当たり前。北京や上海では、子ども1人あたりの教育費が日本円にして4000万円必要という試算もある。
何さんは「自分の子にはあのプレッシャーを負わせたくない。日本の小学校は宿題も少ないし行事も多い。日本の永住権を取って、日本で結婚・子育てをしたい」と言う。
ただし、「ずっと緩いと学力低下が心配だし、中国語も覚えてほしい」から、子どもが小学校を卒業したら母国に戻り、外国語教育に強い中学に通わせることを検討している。高校、大学は英語圏に進学させ、「3か国語人材になってくれるのが理想だが、保険として日本の大学にも行けるように準備したい」そうだ。
コロナ禍で米国の大学から旧帝大に鞍替え
子どもを勉強漬けにしたくないが、「高学歴」も譲れない。そう考える中国人にとって、海外留学はバイパスのような存在だ。そのレールづくりは、子どもが生まれたときから始まる。
2019年に第1子が生まれた遼寧省瀋陽市在住の高勇さん(40代)は、娘を同市にある全寮制の中高一貫校「東北育才外国語学校」に通わせたいと話す。同校は日本の有名大学への進学に強いことで有名で、公式サイトには「2008年から17年まで在校生1359人のうち682人が日本に留学し、うち246人が世界で上位100位に入っている東京大学、京都大学、大阪大学などに進学しました」とある。高さん夫婦はいずれも大学で日本語を教えており、子どもをバイリンガルにするため、家庭では日本語で会話している。
「国内の北京大や清華大は本人の能力がないとどうにもならないが、海外の有名大学なら情報や金があれば進学しやすい」
東北地方在住の趙松梅さんの息子は今年、日本の旧帝大に進学した。趙さんは朝鮮族で、家庭内の会話は韓国語。地元の小学校を卒業し、中学・高校は英語で授業を行うインターナショナルスクールで学んだ。本来は米国の大学への進学を視野に入れていたが、コロナ禍や米国との関係悪化を考え、英語で受験できる日本の大学に鞍替えした。「息子には韓国語、中国語、英語、日本語を駆使し、高収入のグローバル企業で活躍してほしい」と願う趙さんだが、2020年から続くコロナ禍で、十数年かけて進めて来た子どもの進学計画が崩れかけたことから、適応障害を発症し昨年秋に数か月間休職した。
「職場の同僚たちの中で、私の子どもが最初に大学受験を迎えた。絶対結果を出さないとすごいプレッシャーだった」と振り返りながら、「子育てが一段落して、いずれ孫を見たいけど、私たちの背中を見て育った息子が、『子育てはものすごく大変。子どもはいらない』と感じたとしても仕方ない」と苦笑いした。
(文中いずれも仮名)
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