田中駿汰選手(北海道コンサドーレ札幌)の転機は、「プロを目指してはいたが、高校卒業後にオファーがなかったので進学した」という大阪体育大学(大体大)で訪れる。
大体大の練習は、本連載にも登場した坂本康博名誉監督が考案した特殊なもの。この出会いが攻撃的なボランチだった田中選手を、守備も出来るハイブリットなプレーヤーに進化させた。(インタビュアー・石井紘人 @ targma_fbrj)
メンタルの成長を実感
田中:僕は特に「色」がなかったので、坂本総監督(現:名誉監督)の理論はスっと入ってきました。高校までは守備は得意ではなかったのですが、大体大は守備を大事にするチームで、対人練習を毎日やっていました。接触の技術を使って、ボールを奪うのですが、割とすぐに自分のモノにできました。大学に入って、守備はすごく成長したと思います。
――その守備力と展開力を買われて、2019年5月には東京五輪に臨むU-22日本代表に選出され、フランス・トゥーロン国際大会に出場します。同年には強化指定選手として北海道コンサドーレ札幌でJ1リーグ戦にも出場しますが、壁を感じましたか。
田中:代表チームとの真剣勝負は初めてだったので、身体能力で驚かされた部分はありました。でも、大体大でつかんだ自分の接触技術は海外でも通用するなと思いました。それで、準優勝と結果にも繋がったと思います。
J1リーグも同じで、大学生相手からプロになり多少のスピードの違いはありましたけど、対応できる範囲内でした。
――ただ、2019年11月に行われたU-22コロンビア戦(0-2で敗戦)では「メンタルの部分が足りないと感じた」そうですね。この試合は、堂安律選手(PSV、当時)、久保建英選手(レアルマドリード、同)がU-22日本代表で初の先発そろい踏みということで、メディアの注目も高かった。
田中:すごく注目されていると感じましたし、(スタジアムは)満員でした。そういった中での試合経験がなかったので、環境に飲まれたというのはあります。
コロンビアは強いチームでしたが、本来なら(互角に)やれる力はあったのに、半分も出せなかった。たとえば、普段であれば危険なエリアではないと判断出来る縦パスだとしても、「奪われてカウンターになったら...」と考えて、勝負のパスを出せなかった。そういう考えを持っていると、実際にも悪い方向に流れていってしまうなと学びました。
今は多くの試合をこなしているので、メンタルの成長に繋がっていると思います。試合中は、ミスもあれば成功もあります。一つ一つのプレーや動きで、トライを忘れずにやっていけば、自然と色々なことに対応できるメンタルが出来てきます。試合後の帰りのバスでは映像を見て、客観的に、自分の視点で「見えていなかったこと」を確認し、「こうした方が良かったな」と分析し、次に繋げていく意識です。
――コロンビア戦の経験を生かしているのですね。田中選手自身は、日本と強豪国との差はどこだと感じていますか。
田中:個人で試合を決められる選手がいるかどうか。どれだけチームが劣勢でも、個人技で1点とって勝つチームは強い。どのポジションでも、最後の得失点に繋がるプレーで、それぞれが責任を果たし、チームプレーをした上で、自分の能力を出していけるのが強豪国ではないでしょうか。