NHKへの受信料の支払いが不要という「テレビ」が、インターネット掲示板で話題となっている。正確にはテレビではなく、ソニーの「ブラビア」から新たに登場する業務用ディスプレーだ。
2021年7月2日以降に販売を予定している「BZ30J/BZシリーズ」「BZ35J/BZシリーズ」「BZ40J/BZシリーズ」の4K液晶3シリーズは、テレビ機器で知られる「ブラビア」ブランドながら、視聴に必要なテレビチューナーが搭載されていない。
テレビ見ない若者「これが主流に」
これらのシリーズはチューナーが付いていないため、テレビ放映を見ることはできないが、「Android TV」を搭載している。インターネットに接続して「YouTube」や「Netflix」をはじめ様々な動画コンテンツを楽しめるわけだ。
受信料の支払い回避を目的とした製品ではなく、オフィスや商業施設でのサイネージ(情報を表示する機器)といった用途を想定している。
一方、ネット掲示板上では、NHKの受信料を払う必要がないことをメリットとしてとらえる声や、10代・20代があまりテレビ番組を見ないことから「これが主流になっていくのかな」とする反応が出ている。
このディスプレーで受信料を支払う必要があるか、J-CASTトレンドがNHK広報局に取材したところ、各企業の製品については答えられないとしつつ、「放送を受信する機能がないモニター等については、受信契約の必要はありません」との回答があった。
ソニー広報に問い合わせると、これらのシリーズには「テレビチューナーが入っていない」ことから、受信料の徴収の対象にはならないと話す。ただ、法人での利用を想定しており、基本的に直接個人の客に対して販売することはないと続けた。
個人向けに販売されるものではないが、この「BZシリーズ」やチューナーのない「テレビ」についてどういった需要があり得るか、市場調査を行っているBCNのアナリスト・道越一郎氏に分析を聞いた。
「個人需要」アナリストの答えは
例えばホテルといった施設でテレビを大量に導入すると、NHKとの受信契約が複数発生するため、ランニングコスト(維持費)が大きくなる。半面、客室などにチューナーのないディスプレーを設置し、テレビ放送を受信せずにホテルの案内といった独自のコンテンツを流すようにすれば、NHK受信料の支払いを避けられるため、「BZシリーズ」は選択肢となり得る。道越氏は、こう指摘した。
個人からの需要はどうか。受信料を支払う必要なしというメリットはあまり購買理由にはつながらないと、同氏は推測する。まず、NHKの受信料はそもそも支払っていない人が一定数存在し、こうした人にとっては支払いを避けることを目的としてチューナーのないディスプレーを買う必要がない。
次に、いくつもの受信契約を避けることで多額の維持費を免れ得る法人に比べ、個人が「BZシリーズ」を購入しても、受信料回避による経済的恩恵は大きくない。また、チューナーがないからといって、本体価格が特別安いわけではない。
さらに、通常のテレビからチューナー非搭載機器に切り替えたとしても、受信契約を解約するには様々な手続きを行わなければならず、手間がかかる。こうした経済的メリットの薄さや手続きによるハードルの高さから、個人からの需要はあまりないのではないかと道越氏は述べた。
NHK公式サイトで公開されている「2019年度末受信料の推計世帯支払率」(20年6月23日付)を見ると、世帯ごとの支払率(推計)は全国において、19年度末で81.8%だ。
ただ、ドラマ作品など、これまではテレビ放送で通常見るとされてきたものを、スマートフォンの動画配信サービスで視聴するケースが増えてきた。さらに大画面で見るニーズを満たすため、Android TVのようなOS(基本ソフト)を導入したディスプレーが数年後に市場に出回ってくる可能性はあるという。
これに加え、通常のテレビ受像機と比べて価格が安くなるといったメリットが今後出てくれば、この先「新ブラビア」のようなチューナー非搭載の「テレビ」を選ぶ動きも出てくるのではないかと道越氏。ディスプレー単体でネットを利用でき、パソコンといった外部機器への接続が不要な点も長所として挙げた。